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ドイツにおけるインダストリー4.0の最新動向 ~産業のプラットフォーム推進体制とクラウドセキュリティ~

ドイツにおけるインダストリー4.0の最新動向 ~産業のプラットフォーム推進体制とクラウドセキュリティ

2016年5月24日、東京・文京区にある伊藤謝恩ホールにおいて、CSA Japan SUMMIT 2016が開催された。日本で3回目の開催となる本サミットは「サイバーフィジカルシステムを支えるクラウドセキュリティ」というテーマが掲げられた。

インダストリー4.0においても高まるセキュリティの重要性基調講演では、バイエルン州駐日代表部代表であるDr. Christian Geltinger(クリスティアン・ゲルディンガー)が登壇、「インダストリー4.0の最新状況とセキュリティ (Industrie 4.0 Today and its Security)」のテーマで、ドイツにおける産業界デジタル化の課題と戦略の現状を解説した。

今回は、基調講演の内容を紹介する。

インダストリー4.0においても高まるセキュリティの重要性

インダストリー4.0とは、ドイツ政府が推進する第4次産業革命を意味する言葉である。ICT化によって、製造業が大きく改革されるビジョンを示したものだ。すでに工場などの機械やモノ、システムやサービスがインターネットに接続され、そこから上がってくる情報がビッグデータとして蓄積され、膨大なデータを相互にやり取りしながら製造業の生産性向上やコスト削減などを実現している。

パーソナライズされた製品を大量生産する。だからインダストリー4.0が求められたGeltinger氏は、冒頭で「セキュリティは、インダストリー4.0の中でも特に大きな要素。ただし、インダストリー4.0だけでなく、すべての人々に必要なものだ」とセキュリティの重要性を強調した。

最近のセキュリティが絡んだ出来事として、Geltinger氏はSNSのインスタグラムが行ったバグ検証プログラムで10歳の子どもが欠陥を発見し賞金を獲得した話などを挙げた。これらのことからもセキュリティは、企業や人々の身近なところに広がっていることがわかる。

ドイツの企業でも、ワームを仕掛けられるなどのサイバー攻撃を受けている。ある攻撃では、原子力発電所に使われているプログラムが狙われた。その攻撃は非常に洗練されており、いずれかの国家、もしくは巨大な組織が背後にいると推測されている。

「サイバー攻撃の参入ポイントは、いろいろなところにある。例えばネットにつながることは、攻撃の対象になることを意味する。他にも、企業のITシステムがサードパーティのシステムと接続されること、IoTの機器が接続されること、産業システムがインターネットやクラウドと接続されること」と、Geltinger氏はさまざまなサイバー攻撃の参入ポイントを列挙した。

サイバーリスクを下げていく上での重要な点は、自分がどんな情報資産を持っているのか、会社の中にどのような情報があるかを認識すること。このテーマは、非常にシンプルだが、大企業であっても即答するのは難しい。

Geltinger氏は「ITの衛生状態を保つためにはセキュリティが重要だ。ドイツの産業界では、 ITセキュリティは最優先で対処しなくてはいけない重要なトレンドだと認識している。サイバー攻撃が日常的に起こるものであり、その対策も日常的に継続していかなくては、効果がない」と強調した。

パーソナライズされた製品を大量生産する。だからインダストリー4.0が求められた

続いてGeltinger氏は、インダストリー4.0について、歴史を振り返りながら、改めて紹介した。1780年代に、蒸気機関を動力とする機械が導入され、第一次産業革命が起こった。1870年代の第二次産業革命ではベルトコンベア式による大量生産が実現した。1960年代後半の第三次産業革命では、デジタル制御による自動化が進んだ。

そして現在に至るのが第四次産業革命に位置づけられるインダストリー4.0である。情報主導型システムが導入され、製品と機械、IoTによる自動的な制御が可能になり、各情報がクラウドを介して接続、共有されることで、企業の壁を超えた連携が可能になった。

以前の大量生産は、「同じものを大量に作る」ことが主流だったが、インダストリー4.0では消費者の多様なニーズに対応するために、「極めてパーソナライズされた製品を、大量生産する」という方向に進んでいる。

その実現にはシステムが相互運用されなくてはいけない。つまり製品、サービスが互いにIoTやインターネットを介して接続され、情報を蓄積し、ビッグデータとして扱い、生産活動に活かす。その結果、リアルタイムにデータを分析し、将来を予測し、実際の運用にフィードバックすることが可能になる。これがまさにインダストリー4.0の姿である。

パーソナライズされた製品を大量生産する。だからインダストリー4.0が求められた

またシステムのインテリジェンスも重要とGeltinger氏は指摘する。
「インダストリー4.0では、分散化されたシステムがインテリジェントな機能を持ち、それぞれが意思決定を下すことが可能になる。例えば、トラックが工場に入ってくると、システムが自動的に次のステップに進むコマンドを出す。そういうときに人間の介入は必要とされない。システム自身が、他のシステムから得た情報を使って、リアルタイムに意思決定をする」

そしてGeltinger氏は産業にとって、もっとも重要なポイントとして、「モジュラー化」を挙げた。例えば製品を製造する工場を、次のニーズに合わせて、必要な形に変えることが可能になる。具体的には、組み立てラインなどを、それぞれの注文に応じて、スマートに形を変更できる仕組みのことだ。その際、必要なモジュールを置き換えて対応することもできる。

「ドイツ産業界の牽引役は、インダストリー4.0の工場における生産分野である。その製造の効率、スピード、レスポンスの向上によって、産業界は大きく変わった」

インダストリー4.0がドイツのトピックスとされているのは何故か?

「インダストリー4.0はドイツのもの」という認識が広がっているが、その理由は何だろうか。フランスやイタリア、スペインでインダストリー4.0が出てこないのはなぜか。過去20年の歴史を見ると、ヨーロッパ各国で工業の能力が下がり続けてきた。そのなかで、ドイツはものづくりを大切にしてきた数少ない国といえる。フランスやイギリスには、国内に工場はあまり残っていない。だから産業革命が起こる土壌はなかった。しかしドイツにはそれがあった。

Geltinger氏は、「特にバイエルン州は、ドイツの中でも製造業の比率が高い地域である。だからこそ、ドイツの経済の次のステップを考えている」と語る。バイエルン州は、もっともインダストリー4.0の影響を受ける地域といえる。中でもミュンヘン、フランクフルト、ニュルンベルグなどは小さなエリアであっても、産業の波及効果が期待できる。

また産業界だけでなく、IT業界として見ても、バイエルン州の価値は高い。「ミュンヘンがICTの面から見ても重要なのは、産業マップを見れば当然といえる。ミュンヘンでは、IBM、マイクロソフト、富士通などの、数多くのメーカーや金融の会社が非常に近い距離に集まっていて、1時間もあれば互いに行き来して交流できる。まさにミュンヘンはICTのハブといえる」

近年のセキュリティ強化の取り組み

そもそもインダストリー4.0が生まれた契機は、2005年のメルケル政権が誕生した時期に発表されたアジェンダ2020にある。ドイツの競争力を高めるための取り組みとして、発表されたのがインダストリー4.0であり、2012年にはワーキンググループが発足し、着実に成果を残してきた。

そしてヨーロッパの主流なパートナーとも手を組みながら発展を続けている。金融や製造、テレコム、それから各地方自治体との連携にも力を入れている。

特に、強く打ち出そうとしているのはITセキュリティだ。言うまでもなく、モバイル、インフラ、エネルギーにおいてもセキュリティが重要である。これを「Made in Germany」という形でプロダクトとしてアピールしている。その一環として、サイバーセキュリティカンファレンスなどを毎年ミュンヘンで開催している。

続いてGeltinger氏は、最近のベルリンでの取り組みをいくつか紹介した。 DCSOは、アリアンツ、BASF、バイエル、フォルクスワーゲンの4つのトップ企業が、中小企業をセキュリティ面から支援するために作った機構だ。中小企業が、独自に強力なセキュリティ対策を構築し、さらにそれを外部に向かって保証するのは容易ではない。そこでDCSOが、各中小企業のセキュリティのシステムに対して認定を行う。

INDUSTRIAL DATA SPACEは、仮想的なデータスペースを提供するものだ。各企業が標準的な共通モデルを使うことで、セキュアな状態でデータの交換が可能になる。そしてセキュアに接続できるからこそ、簡単にビジネスのエコシステムをつなぐことができる。

このINDUSTRIAL DATA SPACEは、さまざまな産業のプロセスで活用するためのものだ。通常、企業がネットワークを介して互いにデータをやりとりすると、「そのデータは誰の所有か」という問題が発生する。

近年のセキュリティ強化の取り組み

Geltinger氏は「データが誰のものかというテーマは、決して簡単に答えが出るものではない。しかし自社のデータを失うのを恐れていたら、つながるのを拒否するようになる。それを避けるためにはセキュリティが重要だ。そして最終的には信頼関係が構築されなくてはいけない。これはグローバルな取り組みなので、日本のパートナーも参加することができる」と呼びかけた。

そして、今年の3月にはさらに新しいサービスとしてTrusted Cloudが発表された。これは、クラウドサービスの信頼を得るための認証のサービスである。透明性のあるルールを確立し、クラウドの信頼性をコミュニティで作るべく、安全なクラウド利用の推進を狙ったものだ。

「IoT、M2Mのようにネットワークにつながるデバイスは爆発的に増え、2020年には500億ものデバイスに達すると見られている。これだけの膨大な数になれば、管理するのは容易ではない。この革命的な時代に、多くの企業はビジネスモデル、ビジネス戦略を考えなおす必要がある。

バイエルン州は、1988年から駐日代表部を日本に設置している。私たちバイエルン州にとって、日本は完璧なパートナーと思っているからだ。自動車業界で見ても、新しい自動車のコンセプト、新しい燃料のコンセプト、スマートシティの展開など、これからの業界のトレンドが日本にはある。さらなるバイエルン州との協力に期待している」とGeltinger氏は呼びかけて締めくくった。

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