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中国やインドの巨大な波に日本はどう向き合うべきか著名ブロガーが語る世界IT経済の破壊と再生

中国やインドの巨大な波に日本はどう向き合うべきか 著名ブロガーが語る世界IT経済の破壊と再生

※ITコンサルタント/ブログ「Agile Cat」「Cloud News Asia」主催 鵜澤 幹夫 氏

マクニカネットワークスでは、社員の啓発を目的に社外の識者をお招きし、不定期で社内セミナーを開催しています。2015年12月14日には、ITコンサルタントで、海外のクラウド関連情報を日本語で伝えるブログ「Agile Cat」、および「Cloud News Asia」を主催するAリストブロガーの鵜澤 幹夫氏に講師を引き受けていただき、「2015年のマトメ」と題した講演を行っていただきました。

鵜澤氏は、スケーラブルなコンピューティングのハードウェア設計や提供を行うエンジニアコミュニティ「オープンコンピュートプロジェクトジャパン」(OCPJ)の副座長を2015年末まで務めるとともに、IT情報基盤の運用サービスを提供する人材の発掘と育成を支援する「日本MSP(マネージド・サービス・プロバイダ)協会」の運営委員も担っています。

今回は、鵜澤氏の講演内容をLANch BOX読者の皆さまにも特別に共有したいと思います。

世界の日常ではあらゆる局面で破壊と再生が起こっている

鵜澤氏の講演は、主に調査結果などの膨大なデータの列挙が持ち味である。2015年は特にアジアの動向に注目していたという。Business Insiderのデータに基づき米国、EU、中国の購買力平価 (PPP) ベースのGDPの値を比較すると、米ドル換算でEUが25.4%、米国が22.5%、中国が13.4%となり、中国と日本の格差は2.5倍、PPPでは4倍になっている。中国の台頭がめざましく、またインドも急速に追従しているという。

McKinsey Global Instituteが2015年10月に発表した「No Ordinary Disruption: The Four Global Forces Breaking All the Trends」という書籍によると、世界の日常ではあらゆる局面で破壊と再生が起こっているという論点で主張している。急激な変化から生じる大きな問題について指摘するMcKinseyは、重複性と相乗性を有する変化により長期的な予測が困難になってきているとし、新たに生まれた破壊と再生を促す以下の4つの圧力要因を示す。

  • 途上国の成長と都市化:2010年~2025年の間に世界のGDPの半分以上が途上国の440都市へと移行する。
  • 技術の急速な進歩:これまでの歴史上あり得ないスピードでテクノロジーが導入/適用されていく。
  • 人口動態:世界の人口動態は高齢化と少子化という方向で変化している。
  • グローバルにおける相互関連性の増大:グローバル貿易と資本の流動化、国境を通り抜ける人々や情報が、複雑かつ錯綜したクモの巣状の相互関係性をより広大なものにしている。

例えば、スマホの保有台数を見ると、中国は2013年の1月時点で米国を抜き去り、また中国のネット人口も2015年2月時点でモバイル人口が5.57億人、インターネット人口は6.49億人と増加の勢いは止まる気配を見せない状態だ。「まるで違う惑星を見ているようだ」と感嘆する鵜澤氏は、チャイナモバイルの加入者数は8億人もいるとし、巨大なインターネットマーケットが形成されている現状を示す。

中国のネット人口

図1. 中国のネット人口

一方、インドでは2013年7月に、100%外資のモバイルキャリアを受け入れる政策を実施し、マーケットを開放することで海外ベンダーからの出資をインド国内のインフラ投資に振り向けるよう舵を切った。

その後、2015年11月に発表されたある調査結果では、インドのインターネットユーザー数は2015年12月には4.02億人に達し、前年同期との比較において50%増になると伝えている。この急成長によりインドは米国を抜き中国の後を追うという、世界で第2位のインターネットユーザー基盤を手にすることになる。

鵜澤氏は「3年前まで想像もしなかった大変な事態が進行している」と指摘する。

急増するインドのインターネット人口

図2. 急増するインドのインターネット人口

また、インドと中国はアジアの主役になりつつある。インドのモディ首相が提唱するIT政策「Digital India」では、積極的な外資の導入による国内IT産業の急速な立ち上げを狙い、西欧と同等のプライバシー政策を打ち出す。半面、中国はインターネットサービス関連企業Tencentが唱える「Digital Darwinism」(中国進化論)が有名で、国有テコム3社による市場独占と政府による管理、グレート・ファイアウォールによる国内産業の保護と育成、中国国内ユーザーのプロファイルは中国国内DCへ格納するなど、インドのオープン性とは正反対の政策をとっているのが気にかかる。

Alibabaが2014年に最も人気を博したECサイトとなった

ここから、鵜澤氏は個別分野における各種のデータを公開した。最初は、【データセンターとクラウド】について論じた。

Synergy Research Groupが集計した、2015年Q1 におけるグローバル・コロケーション・データセンター市場の世界トップ12ランキングを見ると、1位のEquinixが10位のTelecityを買収するプロセスにあり圧倒的な存在感を示している。

急増するインドのインターネット人口

図3. 世界のコロケーションDCトップ12ランキング

同じくSynergy Research Group によると、2013年Q1のグローバルにおけるクラウドサービスの売上は$2Bに達し、前年同期比で56%の成長となっている。このデータでは、AWSが27%を占めて前年同期比24.7%の成長を示していた。また、Salesforce.comは売上シェアで 2位を確保しているが、その占有率は前年の7.9%から6.8%へとダウンしている。

図4. 2013年Q1のグローバルにおけるクラウドサービスの売上は$2B

BI Intelligenceが公開した最新のチャートによると、中国のAlibabaが2014年に最も人気を博したECサイトとなり、傘下のTmallとTaobaoのマーケットプレイスで3.3億人以上が買物をし、AlibabaとAmazon が逆転したという。11月11日は中国ではシングルズデーのためコマースサイトが一斉にバーゲンセールを実施し、Alibabaはこの1日だけで$1.5B分の商品を売り切った。鵜澤氏は、「恐らく今、世界で最も多くのサーバを保有しているのはAlibabaだろう」と予測する。

2014年 ECサイトランキング。規模の経済でAlibabaがAmazonを逆転している

図5. 2014年 ECサイトランキング。規模の経済でAlibabaがAmazonを逆転している

クラウドを構築する際に、単一のクラウドベンダーに全てを任せるか、複数のクラウドベンダーからリソースを調達して組み合わせる方がいいのかという問題がある。451Researchという会社が、米国内のクラウドプロバイダー26社のあらゆるリソースコストを一覧にし、アプリケーションの規模で比較・調査したところ、小規模アプリケーション規模では18%、大規模アプリケーション規模では75%までコストを圧縮できるという。ただし、それを実現するためにはデータセンター間のレイテンシ計算やそのケア、GUI構築、APIの違いなどをユーザー自身が吸収する必要がある。

複数のクラウドベンダー活用によるコスト削減効果

図6. 複数のクラウドベンダー活用によるコスト削減効果

鵜澤氏は「同様にマクニカネットワークスが取り扱うNUTANIXも、ハイパーコンバージド仮想化インフラストラクチャーという手法で顧客の業務や手間を軽減し、コスト削減と規模の集約を行っている。これからのビジネスで重要な視点になる」と強調する。

また、トップ3(Google、Microsoft、Amazon)のデータセンター・ロケーションの動きとして、Microsoftはインドに大規模なデータセンターを3箇所建設する計画を表明しており、クラウドインフラ建設レースでは他社を圧倒的にリードしている。アジア・パシフィックにも複数の大規模データセンターが建設されており、インフラへの投資が集中していることを物語っている。

Top3のデータセンター・ロケーション

図7. Top3のデータセンター・ロケーション

2019年のアジアのモバイル市場は約30億台に達する

続いて、話は【モバイル】に移った。

「漁師が海鳥を見て魚が回遊しているのを知るのと同様に、モバイル市場が活況するところを見ればサービスやインフラの需要が生まれているため、モバイルを“数で見る”ということは非常に重要だ」と鵜澤氏は説明する。

2015年のAndroidスマートデバイスの世界総販売台数は10~14億台と予測され、特にアジア市場が急増しており、インドだけでも毎年1億台ずつ増えていくという。そして、2019年のアジアのモバイル市場は約30億台に達するという計算もある。

「今後はアジアを中心にモバイル業界のテクノロジーや資本は集中的に投くだされていくだろう」(鵜澤氏)

AndroidとiOSとの2007年~2014年の出荷台数の推移。Androidの急拡大が見て取れる

図8. AndroidとiOSとの2007年~2014年の出荷台数の推移。Androidの急拡大が見て取れる

2011年Q3~2014年Q3におけるスマホ市場の占有率の推移。日本ではiPhoneユーザーが目立つが、世界では圧倒的にAndroidの寡占市場となっている

図9. 2011年Q3~2014年Q3におけるスマホ市場の占有率の推移。日本ではiPhoneユーザーが目立つが、世界では圧倒的にAndroidの寡占市場となっている

スマホアプリの世界でも中国の影響は色濃く反映されている。図9のChina AndroidとはHUAWEIやXiaomiなど中国ブランドのAndroidスマホのアプリのことで、中国国内で販売できないGoogle Playに代わってベンダーがOSSで独自のAndroid App Storeを運用している。グローバルでのApp Store単体としてはiOS が最大の売上を獲得しているが、すぐ後ろにGoogle PlayとChina Androidが迫っている。そして、すべてのAndroid App Storeを合計すると、iOSを超えていることが分かる。

2014年のApp Storeシェア。China Androidが急伸し、Androidアプリの総売上額がiOSを追い越している。

図10. 2014年のApp Storeシェア。China Androidが急伸し、Androidアプリの総売上額がiOSを追い越している。

ただ、驚くべきはインドのモバイルデバイス市場の伸びだ。2015年のランキングでは中国は$1.8Bに対してインドは$4.8Bとなり、中国のマーケットが飽和状態になりつつあることがわかる。

2015年のモバイルデバイス市場(予測)

図11. 2015年のモバイルデバイス市場(予測)

延べ30億人がFacebookから情報を収集する時代

次の話題は【ソーシャル】について。

「ソーシャルはディスプレイ広告にとって、今最も重要な要素になったが、ソーシャルサービスの滞在時間を比較すると、圧倒的にFacebookが多く利用されていることがわかる」と鵜澤氏はいう。

デスクトップとスマートデバイスにおけるソーシャル別の利用時間比較

図12. デスクトップとスマートデバイスにおけるソーシャル別の利用時間比較

Webサイトへの導線は、従来はGoogle検索が圧倒的だったが、この1~2年の間にFacebookがGoogle検索に並ぶほどに増えているという。世界でFacebookのユーザーは延べ30億人ほどいるといわれ、多くの人がFacebookから情報を拾っていることを示しており、Facebookに商用メディアを載せないとPVが稼げないことになる。

FacebookからWebサイトへの導線が急増

図13. FacebookからWebサイトへの導線が急増

また、2015年Q3時点でのFacebookユーザーの内訳を見ると、モバイルだけで利用しているユーザーが、モバイルとデスクトップで利用しているユーザーを超えたという。インドや中国など途上国のユーザーはPCを保有しておらず、モバイルファーストで利用しているユーザーの割合が多くなっているのがその理由だ。

続いて、【広告】についての話題に移った。

鵜澤氏は、「Facebookが強いとはいえ、Googleはメディアの新王者となっている」と断言する。図14を見るとそれが大げさな表現でないことがわかる。

2014年のメディア別広告売上比較。Googleは$70Bに達し、新聞やTVなどの既存メディアが束になっても敵わない

図14. 2014年のメディア別広告売上比較。Googleは$70Bに達し、新聞やTVなどの既存メディアが束になっても敵わない

「WindowsはOffice365やPCを売るためのOSであり、AppleのiOSはiPhoneやiPadを売るためのOS。GoogleのAndroidは広告を売るためのOS」と表現する鵜澤氏。

AndroidをOSSにしてそこでは儲けず、それを拡散して検索を切り口に広告を閲覧させて収入を得るという手法だ。同様に、Facebookもモバイルを切り口に広告収入を拡大し、2015年にはGoogleに次ぐ2番手にのし上がるだろうという。

一方、Appleは広告をブロックする機能をモバイルに提供し、アドサーバからのURLを全て潰す戦略をサービスの一環として行うことで利用者の利便性拡大を図っている。

このように、世の中のメディアは広告を止められてしまうブラウザではなく独自のモバイルアプリにプラットフォームを移行し始めている。Googleも検索に専用アプリを投入して広告をブロックさせない戦略にシフトする可能性もあるという。

鵜澤氏は、「広告というものは商品経済が動いている以上不可欠のものであり、なくなることはない。GoogleやFacebookが広告を吸い上げ、それがまたITマーケットの中に再配分されていくのであれば業界を潤すことになり歓迎すべきこと」と語る。

アジア市場をしっかりと見据えることが日本にとって重要

最後に、【IoT】に言及した。

IoTのデバイス数の予測は、調査によってさまざまであり、どこまでをIoTと定義するかの違いによって見方が大きく変わるという。ただ、今後巨大なマーケットになるという見通しは共通している。

IoTデバイス数の予測。強気のCisco Systemsから控えめなGartnerまで

図15. IoTデバイス数の予測。強気のCisco Systemsから控えめなGartnerまで

「アジア・パシフィックはIoT開発でグローバルのトップを走っている」という鵜澤氏は、強権国家が多いアジア地区では政府主導で開発政策が進み、欧米よりも社会全体をデジタル化にシフトしやすい環境にあるからだという見解を述べる。

では、IoTのマーケットはどこにあるのだろうか。鵜澤氏が有望だと考えているのが自動車損保業界だ。車にはカメラやセンサーなどが大量に搭載されているのでIoTでデータが蓄積され、自動車事故の際にはさまざまな証跡情報が収集できる可能性がある。従来は自動車損保会社が労力と時間をかけて事実関係を収集していたが、IoTのデータを付き合わせることでかなりの時間を短縮することができるのだという。

「保険料の低下が可能になり、ユーザーにとってもメリットが大きい」と鵜澤氏はいう。

IoT業界は米国が先行しており、例えばスマートホームの普及率では他国を圧倒している。

米国、スマートホームの普及率では他国を圧倒

図16. 米国、スマートホームの普及率では他国を圧倒

例えばGoogleが2014年6月に発表した開発者向けプログラム「Works with Nest」は、サーモスタットや煙検知器などと開発者の製品がAPIで連携できるようになっている。また、環境制御機器の製造を手がける米HoneywellもSalesforce.comのIoTプラットフォームを活用し、インターネットに接続した住宅用サーモスタットを開発・販売している。

一方、中国では2020年にIoTの市場が現在の5倍の5兆円に成長し、スマートメーターのセグメントでは他国と10倍の差をつけると予想されている。中国では2020年に55歳以上の人口が3.4億人前後に達し、空前の高齢化社会を迎えるため、スマートホームやスマート介護などをIoTで実現していくことが求められているからだという。

最後に鵜澤氏は、「200年前に世界を席巻していた中国やインドが再びITで世界経済に返り咲くことでパワーバランスの軸は大きく変わっていくだろう。特にアジア市場をしっかりと見据えることが日本にとって重要である」と語りかけ、講演のまとめとした。

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