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半導体とネットワークを有機的に融合したIoTを提案 ― 技術商社マクニカグループならではの取り組み(前編)

半導体とネットワークを有機的に融合したIoTを提案、技術商社マクニカグループならではの取り組み

1990年代初頭に提唱されたユビキタスコンピューティングを源流に、当初はRFIDを活用してモノをインターネットで認識するという考えで提唱されたIoTは、2009年に再定義されたことでモノの認識という定義からマシンとマシンのつながりを超えて、さまざまなプロトコル、ドメイン、アプリなどをカバーするシステムやデバイス、サービスをつなぐM2M(Machine to Machine)の要素を色濃く取り入れた概念に発展。それを機に、IoTが世界中に知られるようになりました。

今回は、そんなIoTの成り立ちとブームに隠された課題について、IoT ソリューション等を提供するマクニカグループのオリジナル技術ブランド 「Mpression」 を統括する長島資記氏に話を聞きました。

2020年にIoT市場は420兆円にまで拡大すると予測

長島氏

Q:最近、一般のメディアでも「モノのインターネット」を意味するキーワードのIoT(Internet of Things)がブームとなり、半ばバズワード化している状況ですが、改めてIoTとはいったい何でしょうか。

長島氏:ITベンダーを含めてさまざまな企業がIoTを定義しようとしていますが、IT用語辞典e-Wordsでは「コンピュータなどの情報・通信機器だけでなく、世の中に存在する様々なモノに通信機能を持たせ、インターネットに接続したり相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うこと」としています。

また、日本IBM様は「モノのインターネットとはコンピューティングと通信の未来における技術革新であり、いつでも、どこでも、何にでも接続できるという概念に基づいています」と表現しています。一方、インテル様は「デバイスがインターネットに接続し、高度化するコンピュータ機能を統合し、データ解析によって意味のある情報を抽出」することであると定義しているようです。結局、あらゆるモノがインターネットにつながることで何らかの価値が得られることだと理解すればいいでしょう。

Q:IoTの市場規模はどれくらいが想定されているのでしょうか。

長島氏:調査会社のIDC様の予測によれば、既に2013年に1兆3000億ドル(160兆円)と試算された市場は、2020年に3兆400億ドル(420兆円)にまで拡大し、エッジデバイス(インテリジェンスにインターネットにつながる端末)の数は300億台になるとしています。その時代の世界の人口は76億人と推定されているので、人口1人あたり3.94台のエッジデバイスを持つことになり、単純計算でモノ1個あたり1万4000円の価値を生むというわけです。

IoT市場は2020年に3兆400億ドルにまで拡大

図1. IoT市場は2020年に3兆400億ドルにまで拡大(出典:IDC Japan)

また、米Fairchild Semiconductor社のJanusz Bryzek氏が提唱する「Trillion Sensors Universe」という考え方では、毎年1兆個のセンサーを活用する社会を目指し、既に米国では取り組みが進んでいるといいます。1兆個は、現在のセンサー需要の100倍、世界の70億人が150個ずつ使う規模で、道路や街路樹、人の着衣からゴミ箱まであらゆるものにセンサーを取り付けて情報を集め、社会や経済活動に役立てることを目標にしているようです。

Q:まるでセンサーの爆発ですね。

長島氏:まさにIoTはこれから爆発していくでしょう。だから皆さんがIoTに注目しているわけです。一方、日本ではどうでしょうか。例えば、購入者の年齢を予測してお勧めの飲み物を表示する自販機や、インターネットでつながっているコインパーキング、電力やガスのスマートメーター、衛星経由で稼働状況を管理する建設機械など、一部は実用化しているといえます。

インターネット黎明期にIoTの出現を予言した人々

長島氏

長島氏:ここで少し、IoTに至る歴史について紐解いてみましょう。今から20年以上前にもIoTと同じようなムーブメントがあったことはベテラン技術者の方ならご存じだと思います。ユビキタスコンピューティングというブームです。ユビキタス(Ubiquitous)という概念は、1991年に米Xerox社のパロアルト研究所 教授のMark Weiser氏が書いた論文で初めて登場しました。元はギリシャ語の「神は遍在する」という意味で、あちこちに多くのコンピュータが散在し、意識することなくお互いがつながっている状態を表現した言葉です。Windows 95が登場する以前、インターネットという言葉もあまり知られていない時代でした。

それを受け、日本でもユビキタスが世間を席巻しました。その火付け役となったのが、日本を代表する計算機科学の第一人者、東京大学 教授の坂村健氏です。今もTRONプロジェクトのプロジェクトリーダーとして活躍されている坂村氏は、既に80年代に国産OSであるTRONの体系を発表し、「どこでもコンピュータ」という考えを提唱してきました。それがユビキタスの日本上陸と同時に融合。ユビキタスコミュニケーターというPDA(携帯情報端末)に街の至る所に埋め込まれたICタグや赤外線ビーコンを読み込ませ、位置情報と組み合わせて情報を提供するという構想を発表しました。点字ブロックなどにICタグを埋め込み、その情報をインターネット経由で活用する実験が行われ、今でも銀座の街には当時のタグが埋め込まれたままになっているそうです。

こうした社会実験を背景に、実業の世界ではM2M(Machine to Machine)が現れています。現在、日本にある自動販売機の8~9割は無線でインターネットにつながっており、在庫データをセンターが自動的に送信し、商品が不足しそうになったら必要に応じて配送することができるので、大幅なコスト削減に役立っています。移動通信網が大幅に整備され、人口カバー率の急速な向上によりインフラとしての信頼性が上がり、クリティカルな事業にも活用できるようになったことが成長の大きな要因です。

M2M のキャズムを超えてIoTがようやく登場

Q:そんな経緯の中、マクニカグループはM2MやIoTにどのように関わってきたのでしょうか?

長島氏:マクニカグループはM2Mの発展に早くから注目し、企業・個人・大学などが連携・協業するオープンな団体「新世代M2Mコンソーシアム」の立ち上げに参画しています。当初は理事の1社という立場でM2M市場の活性化のために動いたという実績もありました。この新世代M2Mコンソーシアムでは、これからのM2M市場を作っていくために会員企業がワーキンググループを作り、それぞれのターゲット市場での活用方法、プラットフォームづくりなどを手分けして模索しています。近年はM2Mの最初の勃興期から発展して、より現在のIoTに寄った考えを主軸に置いています。

Q:それがきっかけで日本でもIoTブームが到来したという流れですね。

長島氏:いや、実はそうすんなりとはいきませんでした。ユースケースはすでにいくつか存在し、これから市場が大きくなりそうだという機運も見えてきたのですが、なかなか広がらなかったのです。その大きな原因として、プレイヤー側にもさまざまな問題を抱えていたことが分かりました。

ビジネスには明るいがセンサーのことがよく分からないIT企業や、顧客がM2Mを取り入れたいと希望しているもののどうしていいか分からないSIer、センサーは作れるがシステムまでは踏み込めないデバイスメーカー、センサーデバイスもシステムも作れるけれど全てを囲いたがるセットメーカー、ケータイ市場の伸びに悩みを打開するためM2Mへ活路を見出そうと目論む通信キャリアなど、プレイヤーがばらばらの状態だったのです。

今考えればその5年ほどは、市場全体がいわゆるマイケルムーアがいうキャズム(溝)を越えようと次の市場の形を模索した時代だったと思います。そしてようやくIoTが登場します。

M2MはIoTの構成要素の1つ

長島氏: Internet of Thingsという言葉はマサチューセッツ工科大学にあるAuto-IDラボを設立したメンバーの一人であるKevin Ashton氏により1999年に初めて使われた言葉です。Auto-IDラボは主に物流などの分野でモノを自動認識し効率的に管理していく体系を研究している機関で、バーコードやICタグ、RFIDの国際標準規格を提唱しセキュリティや運用を研究しています。つまり、当初のIoTはRFIDを活用してモノをインターネットで認識するという考えだったのです。しかも、これはユビキタスコミュニケーターで坂村教授がやろうとしていたことに非常に似ていました。

それから10年ほど経った2009年に、Ashton氏はRFID Journalという業界誌に改めて論文を掲載し、Internet of Thingsの考えを発表します。それは当初の文脈から大きく路線を変更し、モノの認識という定義からマシンとマシンのつながりを超えて、さまざまなプロトコル、ドメイン、アプリなどをカバーするシステムやデバイス、サービスをつなぐM2Mの要素を色濃く取り入れた概念に発展していました。それを機に、IoTが世界中に知られるようになりました。

今のIoTの状況は20年前のWindows 95ブームと酷似

Q:しかし、今でもM2MとIoTを完全に別物と考える人はいます。

長島氏:狭い意味ではそうかもしれませんが、歴史を踏まえるとM2MとIoTは切っても切れない関係であることも事実です。M2Mをデバイスとデバイスの間での通信とすると、IoTはデバイスとデバイス、さらにその先の人やサービス、コンテンツまでつなげてしまおうという概念であり、M2MはIoTの構成要素の1つと考えることができます。

M2MはIoTの構成要素の1つ

図2. M2MはIoTの構成要素の1つ

センサーネットワークやM2Mが狭義のIoTだとすれば、FAやスマートグリッド(次世代送電網)などのIndustrial Internet(産業のインターネット)や、スマートシティ、Smart Planetなどは広義のIoTとなり、すべて狭義のIoTの上位互換になる過渡期ということが考えられます。

長島氏

ここまで長々と歴史を述べてきたのは、IoTは成り立ちが複雑で、その構成要素も乱立して微妙に異なっていることを理解していただきたかったからです。またそれが原因で、それぞれの世界で独自のネットワークが形成され、IoTの理念であるはずの全てをつなげるというところが阻害されているのです。IoTを支えるプロトコルだけを見ても、MAC/PHY層、リンク層、アプリケーション層に実にさまざまな規格や技術が提案され、排他的な動きも助長して、異なる成り立ちのものをつなげるためにはまだまだ難関が立ち塞がっています。

でも、別な見方をすれば今のIoTの状況は20年前に似ているといえます。1995年はWindows 95が発売された年です。インターネットが簡単に利用できるOSとして大きな話題となり、深夜の量販店前には大行列ができました。IoTはまさにこの状態なのではないでしょうか。

Q:では、IoTではいったい何ができるのでしょうか?

―― 後編に続く

【後編はこちら】

https://www.macnica.net/lanch/lanch2015/sp07.html

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