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ビットアイル総合研究所の熊谷チーフに聞く!
OpenStack導入によって改善できたこと、運用の課題、コミュニティに期待することは?

ビットアイル総合研究所の熊谷チーフに聞く!

※株式会社ビットアイル ビットアイル総合研究所 チーフ 熊谷 育朗 氏(写真:右)
※マクニカネットワークス株式会社 エンジニア 野原 峰彦(写真:左)

インターネットデータセンターのリーディングカンパニーとして知られ、プロフェッショナルな技術陣を多数揃えてクラウドサービスや人材リソースの提供を含めた総合ITアウトソーシングサービスを展開する株式会社ビットアイル(以下、ビットアイル)は、2011年に研究開発の専門組織としてビットアイル研究所を設立し、OpenStackの技術的な実証実験や検証、OpenStackを活用したグループ向けクラウド基盤の構築、テクニカルトレーニングなど、OpenStackに関するさまざまな取り組みを行っています。

ビットアイル総合研究所 チーフの熊谷育朗氏はOpenStackコミュニティでも活躍されていて、海外で開催されるOpenStackサミットにおける詳細でライブ感のあるレポートはOpenStackに関心のある日本の技術者の間で高い評価を受けています。2015年10月に日本でも「OpenStack Summit Tokyo」が開催されることになりましたが、今回はそれを記念して、熊谷氏にOpenStackへの取り組みや導入の効果、課題、今後のサービス展開などについて、マクニカネットワークスの野原がお話をうかがいました。

OpenStackのコミュニティの盛り上がりに背中を押され勇気づけられた

野原:OpenStackを導入する以前、つまり仮想化基盤を導入する前や、仮想化基盤におけるこれまでの主な課題とはどのようなものだったのでしょうか?

熊谷氏:当社は2009年からVMwareベースのプライベートクラウド基盤を提供しています。おかげさまで多くのお客様にご利用頂いている一方、お客様側のサーバの拡張スピードが高まっており、限られた人的リソースの中で対応をしているので、運用側の負荷は高まっていました。

そんな状況にあって、OpenStackでサーバはもちろんネットワークやストレージも含めて仮想化基盤を一式構築できるようになれば運用側の定常的な負荷も軽減するのではないかという期待がありました。

実際には、まだそれほど大規模にOpenStackを展開しているわけではありませんが、効果についてはある程度見込めるのではないかと考えています。

野原:その中で、なぜOpenStackに辿り着いたのでしょうか?

熊谷氏:2011年にあるベンダーさんとOpenStackを検証する機会をいただいたのがきっかけです。当時から既にCloudStackなどクラウド基盤を提供する方法はいくつかありましたが、OpenStackはオープンソース(OSS)だったという点が大きかったですね。ライセンスベースのソフトのように評価期間が決められていると、当初想定した範囲の開発をやりきるだけで満足してしまい、それ以上進歩がないように感じましたが、OSSなら細く、長く、自由なペースで開発を続けられ、手探りでも活用していく中でさまざまな検証の仕方ができると考えました。

最初はOpenStackに的を絞った開発には多少不安もあったのですが、OpenStackのコミュニティの盛り上がりに背中を押され、勇気づけられたように思っています。

野原:熊谷様の「OpenStack Summit」におけるクオリティの高いレポートが印象的ですが、OpenStackとの出会いはいつ頃だったのでしょうか?

熊谷氏:実は私自身は、2013年4月に公開されたコードネーム「Grizzly」でOpenStackに触れ、同年10月からリリースされたコードネーム「Havana」から本格的に取り組みました。その後もくじけそうになりながらも勉強を続けて来ましたが、2014年11月に開催された「OpenStack Paris Summit 2014」に参加して考えが大きく変わりました。会場は大変な盛り上がりようで、多くの技術者が熱っぽく語り合っているのを見て、それまでの迷いは吹き飛びました。

パリのサミットではコントリビュータへのアップストリームトレーニングも受けましたが、OSS開発におけるモチベーションを学び、OpenStackは教育にも心を砕いていることを知り、これは組織として本物だと感じました。

いつでも必要なサーバリソースを社内調達することが可能に

野原:OpenStackの導入によって運用面やサービス面で大きく改善できたことはありますか?

熊谷氏:大きく2つあります。1つはOpenStackの試験環境を作り社内向けに提供したことです。それまでの社内での認識は、サーバというものは物理サーバを調達し、ラックに備え付けて使い始める、あるいは顧客向けのレンタルサーバを社内で利用するという認識が多く、部署単位で気軽にサーバを導入するという雰囲気ではなかったのです。しかしOpenStackを導入することで、いつでもすぐに必要なサーバリソースを社内調達することが可能になり、サーバを使ったさまざまな検証やトライアルが広く行われるようになりました。

もう1つは、OpenStackによるお客様向けのサービス提案を明確化できたことも大きな成果です。従来はVMwareによるサービスやそれに付随するネットワークのサービスなどばらばらに提供していたのですが、OpenStackを活用することによってサーバからストレージまでの一連のサービスが提案できるようになりました。それにより、お客様にOpenStackへ強い関心を持っていただき、どんなことができるのかといった質問を受けるようになりました。コミュニケーションの幅が広がり、今までできなかった新しい提案が可能になったと感じています。

野原:OpenStackにおける運用チームの運用体制や教育はどうしているのでしょうか?また、ツールはどのようなものを利用していますか?

熊谷氏: 1年ほど前から社内向けにOpenStackのトレーニングを行っています。基本的な構造や使い方を学ぶほか、実際に構築してみようといった基本的な内容で、2日間かけて実施します。それによってOpenStackに関心を持ってもらったら、さらに実践的な内容のトレーニングを受けたり、社外のOpenStackトレーニングを受講したりしてもらいます。運用体制は、物理マシンの構築から運用まで、従来からのマネージドサービスの延長でOpenStackを運用しており、その上でケースバイケースにてOpenStackの運用ノウハウを日々蓄積しているところです。

活用しているツールは、統合監視ツール「Zabbix」によるサーバ監視や、Red HatのRPMパッケージ「RDO」によるデプロイのほか、最近協業を開始した英Canonical社のプロビジョニングツール「Juju」やフィジカルプロビジョニングツール「MAAS」などを利用しています。なるべく自動化を進めて人手がかからないような運用にしたいと思っているところです。

OpenStackはいくら学んでも学びきれない部分がある

野原:では、実際にOpenStackを導入し、運用して感じる課題とは何でしょうか?

熊谷氏:OSSは常に進化しているため、内容がすぐ古くなってしまうことに戸惑っています。1年前に作った環境でも使い続けるのは不可能ではありませんが、やはり1年を経て見ると古さを感じてしまいます。新しい技術が登場する度に既存のものと置き換えていかないと、常識がいつの間にか非常識になり、今度は社員が社外で恥をかいてしまいます。

OpenStackはいくら学んでも学びきれない部分があり、トレーニングの中身も拡充する必要性を感じています。

また、トラブルシューティングの難しさも実感しています。原因が分かってしまえば対策はいくらでもあるのですが、最初の段階でトラブルにつながった道筋は複数存在するので、それを担当者が理解するまでが大変な作業になります。OpenStackは物理サーバ、仮想サーバの両方の知識はもちろん、仮想マシンやネットワーク、ストレージの知識も必要で、サーバとネットワークだけを担当していた担当者も、OpenStackを担当した時を境に使い方からトラブルシューティングまでの全ての知識を持っていなければなりません。全員が全般に深い知識を持つのは無理でも、専門分野別に複数の担当者が連携し合いながら運用していければと考えています。

野原:お客様のOpenStackに関する知識レベルもここ数年で上がっていると感じますか?

熊谷氏:去年まではOpenStackへの興味も知名度もそれほど高くありませんでしたが、2015年に入ってから急に関心が高まったように感じます。メディアで取り上げた記事が増えたからかも知れませんが、OpenStackの知名度が上がり、当社から説明する機会も増えました。

PLUMgridのオープンソースコミュニティへの貢献度に注目

野原:少し話がずれますが、コンテナの需要は感じていますか?

熊谷氏:確かにOpenStackと同じくらい、コンテナについても話を聞きたいというお客様が増えているのも事実です。

野原:その際に、今後OpenStackでDockerコンテナを扱えるようにする「Magnum」を活用するという計画はあるのでしょうか?

熊谷氏:それも考えてはいるのですが、当社の場合、OpenStackのベアメタルデプロイ技術の「Ironic」を先に導入したいと考えているのです。通常、OpenStackは仮想サーバや仮想ネットワーク、ストレージなどをエンドユーザが自らクラウドに構築できる環境を提供しますが、Ironicは仮想サーバの代わりに物理マシンに展開するサービスで、物理マシンへのアクセスを必要とするワークロードのプロビジョニングが可能になります。これによりOpenStackがハイパーバイザーを利用する仮想マシン、コンテナ、ベアメタルをサポートでき、各ワークロードを最適な環境に置くことが可能になるので大変期待しています。

野原:Ironicによるベアメタル導入になると、ネットワーク側でSDN(Software-Defined Networking)の選択という可能性もありますか?

熊谷氏:SDNかNFV(Network Functions Virtualization)かは分かりませんが、OpenStack基盤を提供する際にはインターネット回線は必要で、高額なルーティングの機器を用意するとサーバは安価でも全体的なコストがネックになるため、それを仮想マシンのようにスケールアウトできるようになればフレキシビリティ性の向上が実現すると思います。

野原:マクニカネットワークスも2014年7月に、米PLUMgrid社のOpenStack向けSDNソフトウェア「PLUMgrid OpenStack ネットワーキングスイート」(以下、PLUMgrid)の取り扱いを開始しました。PLUMgridをどのように評価していますか?

熊谷氏:PLUMgridのパフォーマンスと拡張性の高さに関心を持っています。また、自動ワークフローでOpenStackクラウドを迅速に導入できる「IO Visor技術」を、データセンターのネットワーキングと仮想化を推進するためのLinux Foundationの集団パートナーシッププロジェクトに寄贈したことも大きな話題となり、オープンソースコミュニティへの貢献度にも注目しています。

OpenStackの世界でもネットワーク領域は依然として難しい部分です。今後、PLUMgridのGUIで容易に運用できれば作業効率が格段に向上するでしょう。

大手企業のOpenStack事例公開によって一般企業にOpenStackが広まる可能性も

野原:今年10月に日本で初めて「OpenStack Summit Tokyo」が開催され、ビットアイル様もスポンサーに名を連ねていますが、本イベントによって日本でのOpenStack市場はどのように変化するとお考えですか?

熊谷氏: 恐らく、OpenStack Summit Tokyoまでは日本でOpenStackビジネスを考えているベンダー各社は切り札の公開を控え、手の内を明かさないでしょう。イベント終了後に一気にカードを広げ、そこで最も可能性の高いソリューションが市場を先導するのではないかと予想する人もいます。

ともあれ、今後大手企業のOpenStackを活用した成功事例も公開されれば、それを他の企業も見てOpenStackの可能性が広く認知されていくようになると思います。それが当社にとっても理想ですね。

野原:今後、OpenStackのベンダーやコミュニティに期待することは何でしょうか?

熊谷氏:1つは、多様性を担保したまま進んで欲しいと思います。大手企業がOpenStackビジネスに参入してきたので一抹の不安はありますが、コミュニティには“Big tent”という考え方でさまざまな技術を取り込んでいく方針を堅持していますので期待しています。また、前回のサミットでも話題になっていましたが、分散したOpenStackサービス間のデータや機能を連携するフェデレーション技術も出てきているので、それにも可能性を感じています。

野原:最後に、OpenStackを活用したビットアイル様のサービス展開についてお聞かせください。

熊谷氏:今後当社では、「OpenStack ホステッドプライベートクラウドソリューション」の提供を予定しています。これは、Canonical社のOpenStack導入・運用支援サービス「BootStack」を利用したプライベートクラウドを月額利用できるサービスで、ITインフラ資産を保有する必要がなく、設計・構築・運用やトラブル対応などのサポートが24時間365日受けることが可能になります。オプションでOpenStackの実践的なトレーニングプログラムも提供するつもりです。

また、OpenStackをベースとしたプライベートクラウド環境「OpenStackハイブリッドクラウド実証センター」も稼働します。当社の高速接続環境「ビットアイルコネクト」を通じて、外部パブリッククラウドとOpenStackベースのプライベートクラウドとのハイブリッドクラウドをロスなくつなぎ、リーズナブルに実証環境を利用できるサービスにする計画です。

野原:日本のOpenStack市場の活性化につながるよう、今後もビットアイル様、熊谷様のご活躍を応援しています。本日はありがとうございました。

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