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これからのCIOには、ITだけでなくビジネスにも精通し、「ビジネスの視点でITを語れること」が求められる。その育成で重要なポイントとは。

「ビジネスの視点でITを語れること」が求められる

GEキャピタル 情報テクノロジ本部長 CIO 松本 良之 氏

General Electric Company(以下GE)といえば、かのトーマス・エジソンが1878年に設立した会社で、世界最大級の企業として知られる。その金融部門であるGEキャピタルの日本法人のCIOを務め、ビジネスキャリアの中でCEOの経験もある松本良之氏は、ITを「会社価値の本質」であり、CIOは「ITを使って会社の価値を最大化する人」であると表現する。今回は、松本氏にこれからのCIOの役割、次世代リーダーの育成方法、注目するITテクノロジなどについてお話をうかがった。

ITを軸としながら、CIOとCEO、両方のポジションを経験

Q:GEキャピタルのCIOに就任するまでの経歴をお聞かせください。

A:学生時代からパソコンが趣味で、ゲームのプログラミングをしていました。そんなこともあり、卒業後はコンピュータのメーカーで働くことを希望し、富士通に入社しました。富士通では主にPC用のソフトウェア開発を担当していたのですが、ちょうど同社がPCを海外へ展開しようとしていた時期だったこともあり、入社2年目から米国へ赴任。欧米の人たちとソフトウェア開発のプロジェクトを進めたり、ソフトウェアの販売権を買って日本語化して販売したり、また、欧米のソフト会社に対して出資や買収したりといった仕事に従事しました。技術職から事業開発への仕事は変わってきました。約9年間に渡り米国に滞在しましたが、バブル経済の動向も変わったこともあり帰国することになりました。

1998年に日本の富士通に戻りインターネット関係の仕事をやりましたが、富士通の本社は大きな組織で優秀な人材が揃っていましたから、特段自分が何もしなくても物事が前に進んでいくように思いました。そんな中「楽でいいけど、このままでいいのかな」と思い、新しい挑戦をしたいと考えるようになりました。サラリーマンが新しいことやるのに有効な方法のひとつが転職です。それまではコンピュータのハードやソフトウェアを提供するベンダー側でしたので、転職するなら今度はユーザー側に回りたいと考えました。

当時は日本に外資系の金融企業がどんどん入ってきた時期でした。外資系金融のM&Aを使った業務拡大に興味を抱き、GEキャピタルへ入社しました。会社では事業開発部に所属し、Eビジネス関連を中心にM&Aとベンチャー投資の現場を体験しました。その後、いわゆるドットコムブームも終り、上司から「金融業の事業開発を担当するか、または、IT部門に移るのが良いのではないか」と言われ、IT部門の道を選びCIOとしてのキャリアを歩み始めました。CIOを数年経験してみて、よりビジネスに貢献し自分の可能性を試す為にCEOを目指したいと思い、ある外資系保険関係の日本法人で3年間ほど社長を務める機会に恵まれました。いざ、やってみるとCEOは良い経験ですが想像以上の激務でした。思うような結果が出せなかったこともあり、3年を節目にして職を辞して次の機会を模索しておりました。その時にGEから「戻らないか」というお話をいただき、再びGEキャピタルのCIOとしてITの世界に戻りました。

CIOは「ITを使って会社の価値を最大化する人」

Q:CIOに課せられたミッションは何だと思いますか?

A:以前の私は「CIO=IT投資について責任を持つ、それが最適かどうかを保証する人」と考えていました。しかしここ2~3年はそれに加えて、ITは企業の価値の根幹に関わるものなのだから、企業価値の維持と拡大を経営陣のひとりとして責任を持つ必要があると考えるようになりました。

これまでCIOとして、会社のIT投資管理の視点からROIを追求し、「十分かつ最低限の投資とは何なのか」を熟慮してきました。しかし、それだけでは社内からもお客様からも感謝されません。ではどうすればいいか。上記に加えて、会社の価値を広げるようなことをしなければならないと思います。具体的なところは模索中ですが、ひとつ言えるのは、ITはコスト部門ではなく、会社の価値の根幹を形成する部門だということです。今では、CIOは「ITを使って会社の価値を最大化する人」と答えるようになりました。

Q:CEOを経験したことで視点が変わられたのでしょうか?

A:CEOは大変な仕事であること、何を気にかけて経営を行っているかが分かりました。当然ですが社長が気にするのはIT部門のことばかりではありません。何より会社を成長・成功させること。そして、お客様に会社の価値を認めてもらい、喜んでもらうこと。それから社員を幸せにするということです。ITはそれを実現する一つの方法だという見方になりました。

社長を経験してCIOも同じ視点を持たなくてはならないと考えるようになりました。以前なら、たとえばITに3000万の投資をした際、十分なROIがなければ投資しない方が良いと考えていました。今でもROIは重要だと思いますが、同時に多くの社員が意味のない作業に時間をとられて嫌な思いをしているということであれば、その投資は実施すべきだと考えるようになりました。社員がより意味のある仕事をやれるようにするのもITの会社への貢献だと考えるようになりました。

会社の価値形成にとって、社員の満足度や幸せは重要です。そういった当たり前のことを、社長の立場を経験し、身にしみて感じました。投資効率だけを追求すれば、外注するのが良い考えのように思います。しかし極端な外注化を行うと、結果として社員の満足度を損なうばかりか、社内のノウハウや技術が空洞化し、会社の価値が流出することになってしまいます。

社員の幸福と技術ノウハウの蓄積による価値の創造に着目するようなりました。

Q:やりがいや達成感を感じるポイントも変わられたのでしょうか?

A:CIOの時もCEOも達成感があるという点では変わらないです。自分の役割に対して最善を尽くせたかを常に考えていています。コストカットは何円、何億円と成果が見えやすいので達成感を感じやすいです。企業価値を増やすということは更に奥が深いと思います。そこで、1つ1つのことを見つめ、価値創造について正しいことをしているということを確認しながら達成感を感じるようにしています。例えば、IT部門では、やはり優秀な人がやりがいを持ってちゃんと働けるIT部門にしないと、将来に大きな禍根を残してしまいます。IT部門の最適な人数や内外比率を考えるときに効率と同時に将来的にあるべき姿を考えるようにしています。

これからのCIOに求められるものは「ビジネスの視点でITを語れること」

Q:IT部門の次世代リーダーの育成について教えてください。

A:人材の育成は、いま私がもっとも力を入れている分野のひとつです。

Q:どんなところを基本として、次世代リーダーに教えたいとお考えでしょうか?

A:まず、IT部門はITを会社に取り入れることが役割ですから、テクノロジについて積極的に学んでいく必要があります。また、そういうカルチャーを作っていくことも大事です。ただし、IT部門は研究所やベンダーではありません。会社の戦略や業務を見据えた上でテクノロジをどう活用するのか、ITがどのように会社の経営に結びついているのかといった点も意識する必要があります。

また、今までのIT部門は他の部門とのコミュニケーションが上手ではありませんでした。その理由は「ものごとをITの言葉で説明する=ビジネスの言葉での説明がない」ためです。次世代リーダーは、ビジネスの言葉でテクノロジやITの本質を説明できる能力を身につけなければなりません。つまり、ビジネスの単語を覚える、ビジネスの説明の仕方を覚えることが必要です。

ビジネスではファイナンスつまり経理の言葉が共通語です。一般的なビジネスマンは、損益計算書や貸借対照表をもとに話をすることが多いです。しかし、IT部門では財務諸表や経理がわかる人は不足しています。ITのリーダーは、ファイナンスの基礎を身に着け、自分たちが投資すべきと思うこと、そして、会社の為に必要なIT開発について損益計算書、貸借対照表を踏まえたビジネスプランで説明する能力が必要になります。先進の技術を取り入れてビジネスの価値を増やし、それを会社の経営陣や他の部署に説得力のある言葉で説明できる能力が次世代のITリーダーにはより求められます。

Q:CIOとはITのプロであると同時に、経営のプロにもなるべきとお考えでしょうか?

A:現在、多くの会社でCIOの重要性が認識されるようになりました。かつて情報システム部長は経理部長や総務部長の下で計算機の担当でした。今では多くの企業でCIOは専務クラスになっています。ただ、まだ技術に詳しいIT担当役員が少ないのも事実です。日本では極めて優秀なゼネラリストの経営陣がいます。それに加えてITの専門家の参画が必要だと思います。今後はITと経営の両面を理解できるCIOが求められると考えます。

Q:IT業界の10年後はどうなっているのでしょう?

A:確実なことは、「ITを活用した企業は生き残る」ということです。ITを活用しない会社が、10年後にどれだけの存在感を残せるのかは大きなチャレンジになると思います。10年後のITテクノロジがどうなっていくのかを予測するのは難しいですが、常に新しいものを迅速に取得していく力がIT部門に必要だと思いますし、それを実現するIT部門を育てていくのが、今の私の責任だと思っています。

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