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増殖する“コネクテッドピープル”が企業をどう変える?
2011年「モバイルクラウド」最前線

増殖する“コネクテッドピープル”が企業をどう変える?2011年「モバイルクラウド」最前線

※写真:鈴木 富士夫(左)、八子 知礼 氏(中央)、村上 雅則(右)

デロイト トーマツ コンサルティング株式会社
テクノロジー・メディア・テレコミュニケーションズ インダストリーグループ
パートナー 八子 知礼 氏

企業のITインフラとしてクラウドコンピューティング(以下、クラウド)を積極的に活用する企業が増え始めており、「所有から利用へ」という考え方が浸透しつつある昨今。また、多くのビジネスマンがスマートフォンやタブレット端末を利用し、社外からモバイル環境で企業内の情報資産へアクセスする機会も増えている。そこで今回は、「モバイルクラウド」というキーワードを提唱し、通信、ハイテク業界を中心に活動の幅を広げているデロイト トーマツ コンサルティング株式会社 テクノロジー・メディア・テレコミュニケーションズ インダストリーグループの八子知礼氏に、マクニカネットワークス クラウドビジネス推進部 部長 村上雅則と同部 鈴木富士雄が、モバイルクラウドの現状とその将来像についてお話を伺った。

モバイルがクラウドに!?モバイルクラウドの実態と来るべき未来

村上:2009年という早い段階から「モバイルクラウド」という言葉を提唱されていましたが、この言葉に注目された理由を教えてください。

八子:サーバ事業者がコンピューティングモデルを変革しようとしていた流れとは逆の視点で、いかに通信キャリアのビジネスモデルを伸ばしていくのかというところが発想の原点です。常時トランザクションが発生するようなビジネスモデルを考えていた時、業務システムそのものをデータセンタ側において利用できる「クラウド」に辿りついたのです。2010年の段階でモバイルデバイスは世界で50億台を突破しており、数年のうちには70億台に到達する勢いです。10億台前後で足踏みしているデスクトップPCでは今後のビジネスの伸びは期待できません。実は、モバイルとクラウドを組み合わせたわけではなく、最初からモバイルありきの考え方なのです。

鈴木:モバイルデバイスの広がりは目を見張るものがありますが、3月11日に発生した震災の影響も大きくありましたか。

八子:大きいと思います。震災ではモバイル通信網のほうが復旧も早かったこともありますし、出勤できない状況の中で仕事を継続させるためには、テレワーク、モバイルワークがなくてはならないものだったのです。だからこそ、企業内に閉じた環境から脱却し、リモートアクセス環境を多くの企業が整備しようと動いています。同様に、復興地ではローカルサーバにあったデータが津波で流されてしまったことで、データセンタに預けておけばよかったと後悔されている企業も少なくありません。さらに、震災で多くのITエンジニアの方が亡くなられたことで、ユーザ側である程度業務が継続できるインフラ作りが重要だと再認識されました。BCPなどの観点で考えると、「モバイル」「クラウド」「テレワーク」といったものが必須の検討事項となっているのが現実です。

村上:BCP自体は5年以上前から話題となっていましたが、ここにきてユーザ側のマインドセットも大きく変化してきているのでしょうね。

八子:おっしゃる通りで、データ自体を企業内の閉じた環境に置いておくという概念ではなくなってきています。しかも、いろんな環境からアクセスできるようにすることはもちろん、その情報をいかにナレッジとして多くの人に提供できるかということにフォーカスが移りつつあります。今は、あえて共有できる環境に情報をあげておこうという流れがあり、まさにクラウドの利便性の高さが活かされる部分となっています。

鈴木:従来のPCとは違い、モバイルデバイスの浸透が情報活用の裾野を広げていくことになるわけですね。

八子:高機能化したデバイスももちろんですが、モバイルクラウドのビジネスモデルの中で一番のボトルネックはネットワークです。これがLTE(Long Term Evolution)の登場により、固定なのかモバイルなのかが問われないくらい大容量通信が可能になりました。そうすると、データセンタで処理するのかローカルで処理するのかもさほど重要ではなくなり、わざわざデータセンタでなくてもローカル処理できるものは処理させようと。そこで重要になるのが、ICTが浸透していないビジネスの方やリテラシのさほど高くない方に対して、使いやすいUIをいかに提供できるかということです。複数のデバイスから情報へアクセスする機会が増えてくるモバイルクラウドでは、UIがより一層重要になってきます。

村上:複数のデバイスからのアクセスが可能で、データの場所を問わない時代になっていくというお話ですが、モバイルクラウドの将来像はどのようにお考えですか。

八子:スマートフォンは、要はコンピュータと同等です。だからこそ、すべての情報をデータセンタに格納せずとも、ネットワーク内である程度処理してもいいはずです。「Wi-Fi Direct」などの技術規格からも分かる通り、デバイス間の通信を直接アドホックで実行する「デバイスtoデバイス」という時代がやってきます。そうすると、保存したデータがすべてデータセンタ側にあるのではなく、繋がっているメモリストレージのどこかに保存され、クラウドにあるのかデバイスにあるのかも意識する必要がなくなります。つまり、「モバイルそのものがクラウドになる」という世界観です。クラウドというかグリッドコンピューティングに近い考え方と言えます。

村上:端末を含めてネットワークの中にあるストレージは膨大です。高速化されたネットワーク全体を一つのコンピュータの塊と見るということですね。

八子:そうならざるを得ないと考えています。半導体や液晶パネルなどの発展の経緯を見ると明らかですが、ある程度の規模まで膨らむと退化、もしくは分割されるはずです。これが、今のデータセンタビジネスでも起こりうる話だと考えています。爆発し続けるデータ量にデータセンタ事業者の投資が追い付かなくなり、ある程度ローカル処理が求められる時代が遅かれ早かれやってきます。ホストの時代からクライアントサーバ、Webコンピューティング、そしてクラウドへとコンピューティングモデルが移りゆく中で、そのサイクルはどんどん短くなっているのが現実です。次の新たなモデルはおそらくクラウドが登場した2007年から10年後、つまり2017年にはやってくると予測しています。

オウンリスクが大きな違い!海外におけるモバイルクラウドの状況

村上:日本の状況はよく理解できましたが、海外におけるモバイルクラウドに対する考え方などはいかがでしょうか。

八子:もともと米国では国土の広さが大きく違うため、リモートアクセスは当たり前の考え方です。日本では未だにリモートアクセス環境が整っていない企業も少なくありませんし、あろうことかノート型でさえ企業内からパソコンを持ちだすことを禁じているケースもあります。特に、日本と海外ではリスクに対する考え方が異なっており、日本の場合は画一的に制限する傾向にあります。米国の場合では、自分自身で責任を負う「オウンリスク」の考え方が一般的で、比較的自由に利用できる分、何かあったときは厳罰が待っています。

村上:海外の場合はデバイスに対して個人所有なのか法人所有なのかという考え方もさほどないように感じています。そうすると、デバイス管理に有効なMDMツールなどは日本では広がるとお考えでしょうか。

八子:いろいろなところで議論されていて、MDMツールなどは広がらないという意見も聞きます。ただ、そういわれていて日本で流行らなかったものは正直ありません。我々もMDMツールを導入しており、これから徐々に広がっていくと思っています。逆に、これだけモバイルデバイスが広がっていて、PC同様に持ち込み、持ち出し禁止にできるはずがありません。それこそナンセンスです。

鈴木:先日中国に行かれていましたが、何か気になる面はありましたか。

八子:ビジネスということよりも、iPhoneなど新しい技術に対しての貪欲さはすごいですね。ただし、それは“見栄”の部分が大きいようです。持っていることがステイタスになるようで、価値あるものは給料の3ヶ月分でも購入するほど。高度経済成長時代に多少の無理をしても車を購入していた日本のように、今の中国ではスマートフォンがそのターゲットになっている状況です。

プラットフォームをどう吸収する?企業の運用に関する注意ポイント

村上:企業が実際にモバイルデバイスを利用する際に注意しなければいけないことなどはありますか。

八子:デバイスの種類がどんどん増えていき、Android OSやIOSだけでなく、Windows Phoneなども当然入ってくるはずです。また、Chrome OSなど顕著な例をはじめ、Windows 8などもWindows Phone 7とUIが酷似している通り、デスクトップOSとモバイルOSがクロスオーバしてくることになります。その場合、モバイルであれ何であれ、プラットフォームを吸収する、もしくは許容するソリューションが必要になってきます。そうなると、使い勝手のいい端末を個人に選ばせる時代がやってくるはずで、そのための運用を考える必要が当然でてきます。できることとできないことを明確に分け、オウンリスクを徹底するなどのポリシーが極めて重要になります。

鈴木:自身でデバイスを選択できるようになれば、今のように企業がデバイスを支給することもなくなるのでしょうか。

八子:きっと支給しない時代が来ると思います。日本ではSOX法の関連で中央集権的に統制環境を整備しましたが、そう長くは続かないのではないでしょうか。今すぐにはそうなりませんが、いずれは分散管理、分散的な権限管理の時代がくるような気がしています。そうなれば、統制の持つ意味も変わってきて、がんじがらめのルールではなく、ガイドラインに沿った形での統制が求められてくるはずです。ただ、自由度が高くなれば、自分自身を律するような、より一層のリテラシが必要になることは間違いありません。

”コネクテッドピープル”の弊害とは?企業に起こるワークスタイルの変化

村上:ワークスタイルにも変化が起こりそうですね。どんな形に変化していくとお考えですか。

八子:ラジカルな意見を言えば、組織に所属していることがあまり意味をなさない時代がやってくるのではないでしょうか。会社がなくなるわけではありませんが、組織に所属しながら他の組織の人たちとどれだけ繋がっているのかということです。昔はよく「会社は使うものだ」と言われましたが、会社は一つのリソースプールであって、それを上手に活用しながらビジネスを進めていくことになっていくと思います。ただ、デバイスの話ではないですが、個人に比重が移る分、責任は当然重くなります。それでも、外で獲得したナレッジをビジネスで活かしながら内部にフィードバックする、それが会社の資産になっていくのではないでしょうか。

鈴木:より外部の人との繋がりを持つことが重要になっていくわけですね。

八子:そういうことをオープンに許容する組織であればあるほど、大きな成長が期待される企業になっていくと考えています。社外とのハブとなる人を数多く抱えている企業、そういった風土を持っている企業がリスペクトされていくことになるはずです。その意味でも、デスクに座っているだけの働き方ではなく、あらゆる部門の人が社外に出ていくべきなのです。経理部門の人であっても、取引先の人と交流を持ったり税務署に出向いてみたり。IT部門であってもそれは同じことです。

村上:モバイルデバイスがあるから外に出るのではない、ということですね。

八子:おっしゃる通りで、例えば交流会とかに参加する機会があっても、ずっとスマートフォンに没頭している人もいます。言わばそれは、スマートフォンに逃げてしまっているだけです。重要なのは、いろんな場に出てみて新しい出会いや情報を得ることなのです。モバイルデバイスはあくまで情報の取りまとめやその後の交流に使うためにあるのです。

鈴木:ちなみに、モバイルクラウドにおいて危惧することはありますか?

八子:時間を有効に使えるという意味でモバイルの有用性は広く認識されているところですが、セキュリティの問題は常に付きまといます。何でも繋がればいいというものでもありません。個人的なことでは、ネットワークに繋がりすぎていることでしょうか。“コネクテッドピープル”というワードがそのうち登場するかもしれませんが、マイクロタイムで情報収集しやすくなったことでインプットは増え、外部との交流や業務処理など生産性が飛躍的に高まったことでアウトプットも増加します。そのため、その間にある“深く考える時間”がどんどん短くなっていることです。多くの人が気付かないままで過ごしていますが、自戒の念も込めて、1日に一度は繋がることをやめてしっかり考える時間を持つべきだと思います。

デロイト トーマツ コンサルティング株式会社
所在地 〒100-0005
東京都千代田区丸の内3-3-1 新東京ビル4階
創立 平成5年4月
資本金 2億円
人員数 969名(2011年8月1日現在)
URL

http://www.tohmatsu.com/dtc/

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