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IPAがクラウド構築に活用できるOSSの評価結果を公開。OSSをクラウドへ活用するためのポイントを聞く。

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企業のみならず自治体や政府機関でも、当たり前のように利用されるようになってきたオープンソースソフトウェア(以下、OSS)。クラウドコンピューティング(以下、クラウド)においても、OSSを採用するメリットは大きいと考えられる一方、実際にOSSを採用している実績例が少ないため、運用やサポート面での不安を懸念する声も少なくない。
では、クラウドでOSSを活用するためには、どうOSSを評価し、どう利用していけばいいのか。「クラウド構築に活用できるOSSの評価結果」を公開した独立行政法人 情報処理推進機構 オープンソフトウェア・センター センター長 田代秀一氏へ、マクニカネットワークス クラウドビジネス推進室 室長 村上雅則から、お話を伺った。

システムの相互運用性を高める「オープンな標準」

村上:コスト面や開発面といったOSSのメリットは、システムやインフラの構築にかかわる仕事をされている方であれば、だれでもご存じだと思います。しかし、クラウドというシステムの基盤にOSSを採用するとなると、実用例があまり見られないことから、リスクにばかり目がいってしまいがちです。そういう中で、第三者の立場でOSSを評価し、クラウドへの適用性を評価した結果を発表された意義はとても大きいと思っています。

本日は、「クラウドにおけるOSSの評価」というテーマでお話を伺いたいと思いますが、最初に、田代さんが現在どのような活動をされているのか教えていただけますか。

田代:私が所属しておりますオープンソフトウェア・センター(以下、OSC)は、独立行政法人情報処理推進機構(以下、IPA)に属する組織です。2006年、正式に発足し、2008年4月には、OSSだけでなく「オープンな標準」を取り入れたソフトウェアの普及という新たな活動目標を加え、様々な方向からOSSの普及促進に努めてきました。

公的機関がIT調達においてシステムの技術仕様を定義する際、特定ベンダーの製品名ではなく「オープンな標準」を用いることは、調達の公平性を高め、さらにはシステムの相互運用性を確保することにもつながります。

OSSは機能だけでなく、開発体制やサポート体制を見極めることが重要

村上:今回は、ソフトウェアを評価した結果を「社内向けクラウド構築のために活用できるソフトウェアカタログ」として公開していますが、このような評価を行おうと考えた背景を教えてください。

田代:OSCでは、社内システム担当者や開発者がクラウド構築を行う際の参考となるよう、OSSの動向を調査するとともに、その機能や性能を評価した基礎資料の作成に取り組んでいます。今回の評価もその一環として取り組んだものですが、クラウド技術に対する関心が高まり、ミドルウェア以下のソフトウェア基本スタックに対するOSSの採用に期待も高まっているという背景が前提となっています。

村上:ソフトウェアカタログでは、社内クラウド構築に使用できるOSSについて、OracleやKVM、Xenといった仮想化機構に関するソフトをはじめ、30種のソフトを5項目(基本情報、サポート、開発の安定性、成熟度、機能)、5段階で評価しています。OSSの導入にあたり、何かポイントがあれば教えてください。

図:社内クラウド構築に使用できるOSS 評価結果例(クラウドの運用・管理ソフト)

図:社内クラウド構築に使用できるOSS
評価結果例(クラウドの運用・管理ソフト)

田代:クラウドシステムの基盤部分など、システムが停止した場合に大きな影響を及ぼしてしまうような高い信頼性の求められる領域へのOSSの活用を考えるのであれば、システムを安定的に運用するために、利用するOSSの機能だけでなく開発体制やサポート体制を見極めることが重要だと考えます。

村上:ソフトウェアの評価手法は、独自に開発したものなのでしょうか。

田代:IPAは現在、OSSを支援する国際組織「QualiPSo(カリプソ)2ネットワーク」のメンバーであり、 OSS評価基準、評価手法、および評価の運用方法等について、同組織のメンバーと協力しながら取りまとめを行っています。
今回のソフトウェアカタログの作成にあたっては、このQualiPSoの評価の考え方を一部取り入れつつ、「そのOSSは長期的に安心して安定に使用できるのか」という視点から OSSの開発体制やサポート状況について評価を行いました。

クラウドは大企業にも、中小企業にメリットがある

村上:それでは、実際に評価を行ったサマリーを伺いたいと思います。まずは、クラウドシステム全般という視点からの評価を教えていただけますか。

田代:クラウドを構築する際に必要となる商用ソフトは、概して台数単位・ライセンス単位・ユーザ単位でコストが計算されるため、総額でみるとかなりの金額となってしまうケースも少なくありません。そういった点から考えれば、導入コストを抑えることができるOSSにはコストメリットがあることは間違いありません。

一方、OSSに対してはサポートや機能証明などといった側面を不安視する声があるのは事実です。その点、コストの妥当性という観点から見れば、サポート人員を自ら抱えることができる大企業ほどOSSが向いているといえるでしょう。

村上:中小企業にとってのメリットはありませんか。

田代:中小企業の場合には構築するクラウド環境の規模が小さいため、大企業ほど極端なコストメリットはないと考えた方がいいでしょう。しかし、商用ソフトウェアの付加機能が必要ないのであればOSSを採用することによってコスト削減効果は十分期待できます。

また、商用ソフトウェアの機能が必要な場合でも、たとえば仮想化は商用、運用監視はOSSで構築するなど、OSSと商用ソフトウェアを併用することによりさらなるコスト削減が可能となる場合も考えられると思います。

村上:クラウドというと、仮想化も重要なファクタとなると思いますが、仮想化機構に関するソフトウェアについての評価はどうでしょうか。

田代:仮想化機構に関するソフトウェアについては、ここ最近で「コモディティ化」が進み、機能面における製品ごとの差異はなくなりつつあると考えています。今回評価した、「XEN」「KVM」「VirtualBox」という3つのソフトウェアの機能を比較しても、機能はほぼ横並びであり、一時あるソフトウェアが特徴的な機能を追加したとしても、すぐに他のソフトウェアでも同様の機能が実装されてしまうという状況です。

したがって、ソフトウェアの機能そのものよりも、運用やトラブル時の対応を考慮し、導入をサポートしてもらうSI企業の経験やノウハウに任せてしまった方がいい場合もあるのではないでしょうか。

クラウド環境の特性を生かしたシステムを構築するために

村上:その他、OSSをクラウドに採用する上で注意する点などありますでしょうか。

田代:運用管理という点で見れば、クラウドの運用・管理ソフトは歴史が浅く、商用・OSSともに抜きん出たものがないのが現状です。しかし少なくとも、オートスケーリング機能、トラフィック分散機能、ライブマイグレーション機能のサポートは、クラウド管理ソフトウェアにとって重要な機能であり、クラウド環境の特性を生かしたシステムを構築する場合には、これらの機能の有無がその製品を採用するか否かの判断基準になることは間違いありません。

この点に関しては、今回ソフトウェアカタログにあわせ、「クラウド運用管理ツールの基本機能、性能、信頼評価」の評価結果を公開していますので、そちらを参照していただければと思います。これは、 クラウドの安定した運用のために特に重要な管理ツールについて、その機能や性能を実機で評価した結果をまとめたものです。

田代:今回公開した調査結果は「クラウドコンピューティング構築へのOSSおよびオープンな標準4の適用可能性調査」として実施した4件の中の2件であり、 そのうち、「OSS仮想化機構KVM5についての調査」と「アプリケーション実行基盤としてのOpenJDKの評価」の2件は、2010年7月に公開していますので合わせてご覧いただければ、クラウドにおけるOSSの有用性をより理解していただけると思います。

村上:本日はお忙しいところ、貴重なお話をありがとうございました。

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