特集

最新のIT技術情報や旬な話題をお届けいたします

Androidケータイから核燃料施設の操作パネルまで使いやすく心地よいUIを創り出す

インタビュー

[今回インタビューした人]
オーシャンオブザベーションズ
CEO、創業者
Sofia Svanteson 氏

大学卒業後、スウェーデン王立工科研究所でヒューマンインターフェースを専攻。修士論文のテーマに日本の「iモード」を選んだことをきっかけに、2001年、ユーザインターフェース(UI)デザインの専門会社オーシャンオブザベーションズを設立。携帯電話端末やモバイルアプリケーションのUIの開発を数多く手掛けてきた。KDDIが今年投入したAndroid搭載スマートフォンのUIも同社の手によるものだ。

「東京で生まれた」UI開発の専門会社

Q:SofiaさんがCEOを務められているオーシャンオブザベーションズは、どんな会社なのですか。

A:主に携帯電話を中心としたコンシューマーデバイスのUIデザインを手掛ける会社で、本社はスウェーデンのストックホルムにあります。2001年の設立以来、ノキア、ソニー・エリクソン、 ファーウェイ、ボーダフォン、テリア、 O2など、多くの企業の携帯電話やアプリの開発のお手伝いをさせて頂いています。今年、KDDIが投入されたAndroidスマートフォンIS01/03に搭載されているUIのデザインも私どもが担当させていただきました。

Q:携帯電話のUI開発を行う会社を作ろうと考えたのはなぜなのでしょう。

A:1999年、当時私は修士論文のテーマに日本の「iモード」を選んでいて、その調査で東京を訪れました。そして、日本ではすでにユーザが携帯電話でインターネットにアクセスできる環境が実現されていることに感銘を受け、この流れが必ず世界の主流になると確信しました。そこで、この携帯電話によるインターネットアクセスのUIをもっと使いやすく、美しいものにしたいと思うようになったのです。これがオーシャンオブザベーションズを設立するきっかけなのです。その意味では、この会社は「東京で生まれた」といってもいいと思います。

大学院卒業後、在学中からWebデザイナーとして働いていた会社に2年間勤めてから、オーシャンオブザベーションズを設立することができました。

Q:全く新しいビジネスですから、立ち上げには苦労されたのではありませんか。

A:設立当時はちょうどITバブルが崩壊した頃で、かなり大変でした。幸運だったのは、そのころ韓国の家電大手のサムソンが新しいUMTS(3G)端末を欧州で展開する計画を持っていて、マーケティングを踏まえて欧州に受け入れられるデザインができるエージェントを探していたことです。これに私どもが選ばれ、文化の異なる国の方々とコンセプトやデザインを一緒に創り上げていくという非常にいい経験をすることができました。

これを契機に、徐々に様々なメーカーとお仕事ができるようになっていきました。

会社設立後半年程度は、従業員は私1人だったのですが、2003年頃からは毎年数人ずつコンスタントに人を採用しています。現在でも従業員数は30名程と規模は決して大きくはありませんが、これは無理に事業を拡大せずに、その時に必要なスキルと情熱を持っている人に来ていただくというポリシーでやってきたからです。メンバーのクオリティの高さが、オーシャンオブザベーションズが多くのお客さまに受け入れられている要因の1つになっているのだと思います。

Q:携帯電話のUIデザインは具体的にはどのように進められるのでしょうか。

A:私どもは、UIデザインを大きく(1)商品戦略やブランド、ターゲット層を踏まえて、UIデザインの大まかな方向性や基本的なコンセプトを創り上げるコンセプトフェーズ、(2)画面の全体の構成やレイアウト、画面遷移を設計するインタラクションデザインフェーズ、(3)コンセプトやインタラクションを反映したグラフィックを作成するグラフィックデザインフェーズの3つフェーズに分けて考えています。

特に力を入れているのが(1)のコンセプトフェーズで、お客さまの要望事項や対象となるユーザのリサーチなどを通じて、お客さまとターゲットユーザに新しい価値を提供することに力を注いでいます。私どもはUIデザインがお客さまのビジネス戦略を動かす鍵になると考えているのです。

Androidケータイのコンセプトは「ヒューマンライクなUI」

Q:KDDIのAndroid端末の仕事はどういう経緯で受注されたのですか。

A:私は会社設立以来、オーシャンオブザベーションズを作るきっかけになった日本で仕事をしたいと考えてきました。特にau design projectで斬新な端末を世に問われてきたKDDIとはフィーリングが合うのではないかと思い、2005年頃から何度となくアプローチをしてきました。しかし、スウェーデンからは日本は遠く、年に1~2度程度しかプレゼンテーションの機会が作れませんでしたし、英語のミーティングではお互いに真意が測りにくいこともあって、なかなか話が先に進まない状況が続いていました。

そうした中、2007年にマクニカの方とお会いして、一緒にKDDIにご提案をしていただけることになりました。通訳をお願いしたり、先方のご要望をタイムリーに伝えていただけるようになったことで、私どもの提案の精度が上がってきたのだと思います。この年1カ月程度の小さなプロジェクトをいただきました。その評価が今回の仕事につながったのだと考えています。

Q:IS01/03のUIは使い勝手の点で高い評価を受けています。どういった点に力を入れられたのですか。

A:これはKDDIのご要望でもあったのですが、機械ライクな操作感になりがちなUIをヒューマンライクなものにすることに力を入れました。

そこで、携帯電話に限らず2009年当時のコンシューマーデバイス、カメラや、ゲーム、カーナビ、ミュージックプレイヤーなどのUIのトレンドをレポートにまとめて、そこからどうしたらヒューマンライクな使い勝手が実現できるかを検討していきました。

Q:魅力的なUIを生み出す秘訣はどこにあるのでしょう。

A:まずデザイナーがポジティブに好奇心を持って、デザインを楽しむことが重要だと思います。そして、携帯電話だけでなく身の回りのものに常にアンテナを張って、そこからインスピレーションを得ることが、魅力あるUIを創り出す上でポイントになると思います。

異なる文化に身を置き、新たなアイディアを創り出す

Q:過去の仕事で特に印象に残っているものはありますか。

A:一番印象に残っているのは、やはりKDDIのプロジェクトですが、それ以前のものでは携帯電話/スマートフォンのSkypeアプリのUIデザインに取り組んだことが思い出に残っています。当時PC上で広く使われるようになっていたSkypeのユーザビリティを損なわずに、携帯電話の上で操作できるようにすることに心を砕きました。

Q:今後はどのような仕事をしていきたいとお考えですか。

A:将来のことはなかなか見通し難いのですが、現在力を入れているタッチベースのUIデザインを携帯電話以外の分野にも広げていきたいと考えています。その1つとして今核燃料プラントの操作系UIのプロジェクトに取り組んでいます。これは人命にかかわるものですから、あまり楽し過ぎてもいけないし、操作が難しくてもいけない。いかにシンプルで間違いなく操作ができるかということが重要になります。

少し長期的なビジョンでは、携帯電話やタブレット端末、テレビなどの様々なデバイスをいかに生活に密着させていくかというテーマに取り組んでいます。

すでにスマートフォンをリモコン代わりに使おうといった試みが始まっていますが、今後は健康管理など様々な分野で携帯電話が使われるようになり、その情報が多様なデバイスで見られるような世界が実現していくでしょう。これをどう使いやすくするかが私どもの腕の見せ所です。

Q:仕事を進めていく上ではどのようなことを心がけていますか。

A:とにかく目の前のものに興味を持ってそれを分析的に捉えていくことを心がけています。もう1つ、いろいろな場所に出掛けていって、常に新しいものを吸収していこうとしています。私どもは幸運なことに世界中にお客さまを持っています。世界の異なる市場に積極的に身を置くことで、新しいアイディアを創り出す土台のようなものができてくるのではないかと思っているのです。

今年8月には初の国外開発拠点として東京にオフィスを設けました。これにはKDDIのサポートの意味もあるのですが、それ以上にデザイナーが日本の文化に直に触れることで新しいものを創り出せるのではないかと考えたのです。

Q:このオンラインマガジンは、技術と人が交わる「場」をテーマにしています。Sofiaさんにとって好きな「場所」はどこですか?

A:大好きな場所の1つは東京です。この街でショッピングするのが私にとって非常にいいリラックス法です。もう1つ、これも日本なのですが、以前訪れた屋久島。私は山歩きが好きで、宮崎駿監督の「もののけ姫」の舞台モデルにもなったこの場所に行ってみたいと思っていたのですが、実際に歩いて森の深さに感動しました。ぜひもう1度行きたいですね。

いつか見た景色 from Staff's Albums