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リアルの店舗とバーチャルの融合で新たな価値を生み出すダイエーのネットスーパー

インタビュー

[今回インタビューした人]
株式会社ダイエー
ネット事業推進部 部長
渡辺 泰章 氏

ダイエー入社後、10年にわたって新規出店・改装店舗のマスタープランニングを手掛けたあと、経営企画部門で子会社の監査や営業戦略の立案に携わる。その経験を生かしてネットスーパーの事業化を提案。プロジェクトリーダーとして第1号店となる東京の「東大島店」の立ち上げに携わった。現在はネットスーパーの全国展開を視野に入れた出店を推進するとともに、ダイエー全体におけるネット戦略を担当している。

新たな商圏と需要層を切り開く

Q:ネットスーパーをご担当になっているということですが、具体的にはどのようなお仕事をなさっているのですか。

A:ご存知の通り、ネットスーパーというのはインターネットで食料品や日用品の注文を頂いて、最寄りの店舗からその日のうちに自宅にお届けする、スーパーマーケットのオンライン版といえるものです。

当社は2008年9月に東京都江東区の東大島店で扱いを開始したのが最初です。09年秋からは関東地区で複数店舗の展開をスタートさせ、現在は東京、神奈川、千葉に10店を展開しています。現在はこれらで蓄積してきたノウハウを生かして、全国展開していくことを視野に入れて、今その準備を進めているところです。私どもの仕事は、そのビジネスモデルの構築からWebサイトの立ち上げ・運用、店舗からお客様宅への物流整備まで非常に広い分野に及んでいます。今年からネット事業推進部を新設し、ネットスーパーのほか、ギフトのネット通販の成長戦略やWebでの店舗・企業情報の提供・改善などにも携わる様になりました。単にネットでものを売るだけでなく、リアル店舗とバーチャルを組み合わせて、双方を活性化させることが、私のミッションと受け止めています。

Q:渡辺さんがダイエーネットスーパーの事業化を提案されたとお聞きしました。何が狙いだったのですか。

A:日本の人口は減少していますから何もしなければ先細りになってしまう。ならバーチャルとリアルを組み合わせることで何か新しいことができるのではないかと考えたわけです。狙いは、大きく2つありました。1つはネットスーパーを展開することで新しいお客さまにダイエーを利用していただき、これをリアル店舗の集客にもつなげていけるのではないかということ。もう1つは、お客さまの履歴がきちんと残るバーチャルの特性を生かして店舗というインフラをマーケティングやプロモーションのツールとして使えるのではないかということです。

Q:成果は上がっているのでしょうか。

A:はい。会員数は順調に伸びています。これにはネットスーパーが世の中に浸透してきたという面もあるのですが、伸張した会員数の約半数が今までダイエーを使って頂いていなかったお客さまだということなのです。その理由の1つは商圏の拡大です。店舗に来て頂けるお客さまは大体1km以内にお住まいの方が多いのですが、ネットスーパーは概ね半径5kmを対象地域としており、店舗によっては75%が店舗から1km以上のエリアのお客さまになっている。ここに新しいマーケットがあったのです。

もう1つは、時間の制約でなかなか店舗へお越し頂けなかったお客さまにもダイエーをお使い頂けるようになったことです。お客さまの属性を見ると30歳代の女性、特に仕事をお持ちの方や子育て中の方の比率が非常に高い。こうしたお客さまに便利に使って頂いていますし、将来的には店舗にも来て頂けるようになるのではないかと期待しているのです。有り難いのは残りの約半数、すでに店舗をご利用頂いているお客さまの購入金額が、店舗とネットスーパーのトータルで以前より伸びていることです。「便利さ」という要素が新しい需要を生み出したのです。実際、雨や雪の日にはネットスーパーの売り上げが2倍くらいになっていますから。

Q:ダイエーのネットスーパーの特徴はどういうところにあるのですか。

A:店出荷型(店頭から商品を出荷)のネットスーパーは差別化が難しいのですが、より魅力のあるものにしたいと知恵を絞りました。例えば、店頭でのポイントと一体化し、ネットスーパーでも店頭と共通のポイントが貯まり、そして使える様にしました。これは大手スーパーでは珍しいサービスだと思います。また、2009年11月から株主優待もご利用いただけるようになりました。
その他、店舗で日曜日に実施している「OMCカードで5%引き」をネットスーパーでも実施して、お買い得感もお店に近づけるといったこともしています。
最近は「環境」を意識されるお客さまが多いので、配送の際に商品をレジ袋ではなくてくり返し使える専用バックに入れてお届けする「エコ便」という試みも行っていて、これも好評を得ています。

図:ダイエーのネットスーパー

ダイエーのネットスーパー

ネットスーパーは強力なマーケティングツール

Q:ネットスーパーは、これまでなかった業態です。会員の獲得には苦労されたのではありませんか。

A:立ち上げの頃は何をしたらお客さまが入っていただけるか分かりませんでしたから、本当にあらゆることに取り組みました。
バーチャルでは、Web媒体も使いましたし、ターゲティングメールもやりました。地域に根ざしたコミュニティサイトにレポートを載せてもらい、口コミ効果を狙うということも行っています。
リアルでも、店舗でのビラ配りや最寄り駅にポスターを掲示するというオーソドックスなものから、運送会社にご無理をお願いして、配送車にマグネットで「ネットスーパー会員募集中」という掲示を貼ってもらうという「奇策」も使いました。
最近では何をしたら効果があるかが見えてきたので、施策を絞り込み、会員獲得の費用対効果はかなり改善されました。
新規会員の獲得とともに、我々が力を入れているのが、既存の会員にどうやってご利用いただくかということなのです。
リアルの店舗だと販促はDMが中心ですが、ネットスーパーの場合、お客さまのプロフィールやご利用状況が分かりますから、メールマガジンやクローズドキャンペーンの形で効果的な販促施策が打てる。DMはどうしても数十万円のコストがかかりますが、このやり方だと、数万円程度の費用で売り上げが数百万円伸びることがある。非常に効率がいいのです。

Q:具体的にどのような施策を打たれているのですか。

A:効果的だったものに、1週間の中で売り上げが伸びない水曜日の配送料を通常の315円から70円にするというキャンペーンがあります。これは販売が大きく伸びました。
もう1つ、効率がよかったのが、会員の中でも、(1)登録しているけれどほとんど使われなくなったお客さまや、(2)登録しただけで1度も使われていない方をターゲットに実施したキャンペーンです。
使われなくなったお客さまにはポイントを、全く使われていないお客さまには「お水」のペットボトルをプレゼントしたのですが、この猛暑の中、非常に大きな反響がありました。使われていない方にポイントを差し上げても意味がないので、誰もが必要で運ぶのが嫌な水をプレミアにしたのですが特にこれが好評でした。こうした手法はお客さまの動態が把握できるネットスーパーだから実現できるのです。
こうした取り組みを進める上で、大きな力になっているものに09年にマクニカネットワークスから導入したSiteCatalyst(サイトカタリスト)というWebマーケティングのソリューションがあります。これを使うことで、お客さまがいつどこからサイトにこられて、どのように動かれて、いつドロップされたかまでトータルで把握できます。

当社では、これを使って定点観測的なデータを得ると同時に、ある仮説に基づいてキャンペーンを打った時、実際にお客さまがどういう反応をされたのかを検証して、それを次の施策に反映させると使い方をしています。PDCA(Plan、Do、Check、Act)のサイクルを回して、精度の高いマーケティングが可能になるわけです。
私どもはあくまで小売業で、Webビジネスではさほど経験があるわけではありません。マクニカさんには、他の分野でSiteCatalystがどのように使われて効果をあげているのかといった情報を提供していただきたいと、お願いしているのです。
店舗数が更に増え、展開エリアが拡大していけば、ネットスーパーは非常に強力なマーケットツールになると考えています。前述したとおり、リアルとバーチャルのポイントを一体化させてシステム設計を行いましたから、リアルとバーチャルの総合消費行動が把握でき、これが他社にはない強みとなっています。メーカー様のプロモーションやマーケティングにご活用頂ける様になりつつあります。

Q:ネットスーパーを展開していく上で、当面の課題はどこにあるとお考えですか。

A:最大の課題はサイトをいかに使いやすくしていくかでしょう。ネットスーパーでは店舗に近い種類の商品を品揃えしているのですが、PCの画面上でお客さまが店舗と同じようにスムーズに商品を探せるかというと、まだそういう状況にはなっていません。
 各店舗で5000~6000円お買い上げいただくと配送料が無料になりますので、ぜひまとめ買いをしてくださいということをやっているのですが、サイトが使いにくいのではそこまでは使って頂けない。ここをなんとかすれば売り上げはかなり伸びると思います。理想はお客さまが最低限のクリック数で買い物ができる状況を作ることです。これを実現するのにも、SiteCatalystが活用できるのではないかと考えているのです。

創意工夫のために努力を惜しまない

Q:仕事の上で心がけていることは何でしょうか。

A:特に仕事では、創意工夫で目の前の課題をどんどん潰していくということを強く意識しています。例えば既存の何かに、別のものをくっつけることで新しいものが生まれるのではないかと。リアル店舗とバーチャルを組み合わせるという発想もそういうところから出てきたのです。
もう1つは、その創意工夫を現実のものにするために努力を惜しまないことです。社内、社外の方にもそこまでやらなくてもといわれることがあるのですが、そうしないと多分新しい価値は生まれてこないと考えています。

Q:このオンラインマガジンは、技術と人が交わる「場」をテーマにしています。渡辺さんにとって好きな「場所」はどこですか?

A:好きな場所といったらやはり家族のいる家ですね。最近犬を飼い始めました。いろいろと新しいことをやるとストレスがたまるのですが、犬が無垢な目で見つめてくるととても落ち着けます。
もう1つは海。年甲斐もなく30過ぎてからサーフィンを始めて、もう5~6年になります。忙しくてなかなか行けないのですが、必ず年に1度は気の合った仲間とバーベキューをかねて合宿みたいなことをしています。凄くいいですよ、海は。

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