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親会社との関係はどうあるべき?新たな時代に求められる情報システム子会社の条件

特集 親会社との関係はどうあるべき?新たな時代に求められる情報システム子会社の条件

コアコンピタンスに対する経営資源の集中が叫ばれた1980年代、情報システム部門が相次いで子会社化されたことで登場した情報システム子会社。バブル崩壊を経た1990年代には、情報システム子会社は親会社からのコスト圧縮要求と自主独立の要請という状況に対して果敢にチャレンジしていくことになる。そして2009年を迎えた現在、情報システム子会社はどのような状況に置かれ、それをいかに打破していくことが求められているのだろうか。今回は、株式会社矢野経済研究所の情報通信産業部の石塚 俊研究員が行った調査結果を基に、情報システム子会社が抱える課題とともに今後の目指すべき方向性を聞いた。

親会社から見た、情報システム子会社の通信簿

情報システム子会社とは一体どんな企業を指すのか、まずはその定義を行っておきたい。一般的には、コンピュータを使うユーザ企業が親会社となり、そのシステムを請け負っている子会社のことを指す。しかしここでは、資本関係のあるまたは資本関係のあった親会社のシステム業務を受託している情報システム会社全体を含めている。例えば、コンピュータメーカーを親会社に持つ情報システム会社や、途中でSIベンダに買収されたために資本関係は現在ないものの、買収以前の親会社のシステムを請け負っている企業などだ。つまり、親会社という内販先を抱えていればすべて「情報システム子会社」となる。石塚氏いわく「幅広い事例を収集するためであり、親会社との関係による情報システム子会社の課題は共通のものがある」からだという。

図1:情報システム子会社の定義

図1:情報システム子会社の定義

本来、コストセンターとしての機能を求められた情報システム子会社だが、2000年代には、ITアウトソーシングなど外部リソースを積極的に活用する機運が親会社に高まるなか、ノウハウを持った情報システム子会社がSIベンダにより買収されるという状況に至っている。ここ数年の動きとして「内部統制などに関連した動きの中で、1990年代よりは情報システム子会社が見直される傾向にあります。」と新たな潮流も石塚氏は指摘する。

では、情報システム子会社の置かれている状況が変化するなかで、実際に親会社はどんな期待や評価を情報子会社にしているのだろうか。

親会社が情報システム子会社に強化して欲しいポイントとして望むのは、「IT活用によるグループ競争力への提案」「サポート体制の充実」などが上位を占めており、単に開発子会社としての位置づけだけでなく、企画立案段階から運用サポートまで一貫したサービス提供を望んでいる状況にある。

また、実際の評価はというと、「コンサルティング力」「ソリューション提案力」など企画プロセス部分に対しておよそ半数近くが満足していると回答している。これは、親会社の業務知識に精通していることできめ細かな提案が可能な情報システム子会社だからこそ、親会社にとっては貴重な存在となっていることの証だろう。

逆に、「サポート体制」に対しては全体の85%が不満を感じているという意外な結果だった。これは、本来なら電話一本ですぐに駆けつけてくれる状況にある情報システム子会社に対して不満を感じるのは、きちんとメニュー化した運用サポートが親会社に提供できていない、つまり運用部分に参加できていない情報システム子会社が多いものと考えられる。これは、「サポート体制」に66.2%が満足しているという一般ユーザによる情報システム子会社の評価を見ても明らかだ。

ただし、親会社の意向は「内販に専念する」が最も期待値として高くなっているというデータもあり、情報システム子会社の外販拡大による自主独立を望んでいない親会社も少なくないのが実態だ。

しかし、内販だけに注力してしまうと提案力や技術力に行き詰るだけでなく、後述する相乗効果を発揮した経営ができずに企業として成長できないという悪循環に陥ることになる。情報システム子会社が内販から外販を強化する過程で企業としての成長を迎えることは、親会社の経営を支えることに繋がるはずだ。外販拡大によって情報システム子会社は更なる成長を目指すべきなのである。

図2:親会社による子会社の評価(出典:矢野経済研究所)

図2:親会社による子会社の評価(出典:矢野経済研究所)

アナリストが指摘する情報システム子会社「6つの課題」

さて、親会社の経営を支えながら外販拡大へと舵取りしたい情報システム子会社だが、現在抱えている課題をまずは整理しておきたい。石塚氏によれば、情報システム子会社には大きく分けて6つの課題があるという。具体的には以下の通りとなる。

  1. 価格に関する課題

    コストセンターとしての役割とみなされ、親会社からの継続的な値引き要請とあいまいな価格基準により、収益性がなかなか上がらない

  2. 業務量に関する課題

    子会社として臨機応変な対応が求められることで短納期要求にも応えざるを得ず、優秀な人材を内販に割かれることで外販展開に最適なリソースを配分できない

  3. 外販に関する課題

    人的リソースが内販に割かれていることで外販に注力できないばかりか、培ってきたノウハウを提供しやすい同業他社にはすでに情報システム子会社があるため、外販展開が容易にいかない

  4. 企画力に関する課題

    親会社に残された情報システム部門が企画プロセスを行うことが多く、開発部分だけの請負になりがち。そのため、企画提案力の弱体化を招き、外販展開時に必要な提案活動がうまくできない

  5. 技術力に関する課題

    内販に求められる業務だけに対応せざるを得ず、技術の幅を広げる機会が少ない。そのため、限定的な技術力しか身につけることができない

  6. 人材の採用・定着に関する課題

    内販業務が多いため、提供できるサービスが狭くなってしまう。そのため、関心を持つ人材を採用することが難しいばかりか、社員のモチベーション低下にも歯止めがかからない

  1. 価格に関する課題

    コストセンターとしての役割とみなされ、親会社からの継続的な値引き要請とあいまいな価格基準により、収益性がなかなか上がらない

  2. 業務量に関する課題

    子会社として臨機応変な対応が求められることで短納期要求にも応えざるを得ず、優秀な人材を内販に割かれることで外販展開に最適なリソースを配分できない

  3. 外販に関する課題

    人的リソースが内販に割かれていることで外販に注力できないばかりか、培ってきたノウハウを提供しやすい同業他社にはすでに情報システム子会社があるため、外販展開が容易にいかない

  4. 企画力に関する課題

    親会社に残された情報システム部門が企画プロセスを行うことが多く、開発部分だけの請負になりがち。そのため、企画提案力の弱体化を招き、外販展開時に必要な提案活動がうまくできない

  5. 技術力に関する課題

    内販に求められる業務だけに対応せざるを得ず、技術の幅を広げる機会が少ない。そのため、限定的な技術力しか身につけることができない

  6. 人材の採用・定着に関する課題

    内販業務が多いため、提供できるサービスが狭くなってしまう。そのため、関心を持つ人材を採用することが難しいばかりか、社員のモチベーション低下にも歯止めがかからない

石塚 俊研究員

これらの課題を解決することで、どんなサイクルを生み出すことができるのだろう。上記1.2.を「内販に関する課題」、3.はそのまま「外販に関する課題」、4.5.6.を「企業体質の強化に関する課題」とまとめてみると、これらの課題を解決することで蓄積されるノウハウをそれぞれに活かすことで、相乗効果を発揮した経営を行うことができるようになる。

図3:各課題を解決することによる相乗効果

図3:各課題を解決することによる相乗効果

新たなステージに向かう経営戦略~内販は最大の強みである!

上記で紹介したサイクルを上手に運用し、相乗効果を発揮するために取り組むべきことについて伺ったところ「様々な課題はありますが、内販先を持っているというのは、実は強みに他なりません。安定的に収入を得ることができるため、内販でしっかりとノウハウを蓄積しながら外販に活かしていくのが理想です。」と石塚氏。さらに、ノウハウを相互に還元しあうことで相乗効果が生まれてくるという。

では、具体的にはどんな取り組みを行うことで理想的なサイクルを作り出すことができるのだろうか。石塚氏は、企業の状況に応じて異なるものの、優先順位をつけながら16の方策を挙げてくれた。「本来なら、すべて同時進行で実施できれば理想的ですが、内部的なリソースの限界もあります。あえて優先順位をつけるとしたら、まずは内販を強化していくことから始めたいところです。」例えば、ミッションクリティカルなシステムが必要とされる鉄鋼メーカーを親会社に持つ某情報システム子会社は、24時間365日運用と止めることができない業態へ外販を進めることに成功しており、現在外販率がおよそ58%にまで達しているという。内販でのノウハウ蓄積が企業体質を強くすることに繋がっている好例だといえるだろう。

図4:重視すべき取り組みとその優先順位

図4:重視すべき取り組みとその優先順位

この16の方策のうち1つでも実践すればいいというものでもないが、この中でも注目できるのが「企画プロセスへの積極的な参加」「運用への取り組み強化」の2つの方策だ。一般的には大きく親会社にアプローチするプロセスは「企画プロセス」「開発プロセス」「運用プロセス」の3つに大別できるが、多くの情報システム子会社は開発プロセスのみの参加に留まっている傾向にあると石塚氏は分析する。開発以前の企画段階から親会社とのかかわりを強くすることで事業拡大に寄与し、さらに開発後に必要となる運用サービスを提供することで安定的な収益を上げることができるようになるという。

【数字で見る企画プロセスでの成功】

企画プロセスから積極的に参加することで事業を好転させたという企業は具体的に調査の中で明らかになっているが、これらの企業を含めた成功の証を定量的なデータで確認してみたい。営業利益率に照らし合わせた企画プロセスへの参加状況を調べたところ、営業利益率が高い情報システム子会社ほど企画プロセスに参加している傾向にあることがわかったという。これは、企画プロセスから参加することで親会社の動向を正確かつ迅速に察知し、適正な人員配置など早めに対策を講じることができるためだと石塚氏。人件費が大きく利益率に影響を及ぼすこの業界ならではといえるだろう。

図5:企画プロセスを強化するメリット(出典:矢野経済研究所)

図5:企画プロセスを強化するメリット(出典:矢野経済研究所)

【数字で見る運用プロセスでの成功】

また、運用はストック型ビジネスといわれるとおり、年間を通じて常に発生する業務になる。つまり、情報システム子会社からすると“おいしい”業務ともいえるのだ。例えば3年もの歳月をかけて運用業務の標準化などノウハウを蓄積し、他の情報システム子会社を巻き込んでSaaS型で運用アウトソーシング業務を外販するなど、運用プロセスそのものをノウハウとして外販に活かした好例も調査の中で明らかになっている。この運用プロセスの粗利益率を見ると、全体の粗利益率よりも高いと回答した企業が41%に達していることからも、運用プロセスはストック型として業績を押し上げる要因になっているのは間違いない。ただし、運用については一石二鳥でビジネス化できるものではないため、長期的にノウハウを蓄積していくことが大切だ。

図6:運用プロセスを強化するメリット(出典:矢野経済研究所)

図6:運用プロセスを強化するメリット(出典:矢野経済研究所) 石塚 俊研究員

親会社との関係の中で揺れ動く情報システム子会社は、今以上に企業としての存在価値を高めていき、親会社とともに成長を続けていくことが新たなステージへと成長を遂げる道なのだ。それには内販で培ったノウハウを活かし、積極的な外販活動で企業体質を強化していくことが求められる。最後に、情報システム子会社に対する様々な情報提供や具体的な生の声が集まる場の提供を検討していると石塚氏。これらの活動も含めて、今後も情報システム子会社に対する働きかけを続けていきたいと語っていただいた。

Reported by Hirokazu Charlie Sakai, Writer

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