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消費電力削減はここから始めよう!利益に直結する“グリーンIT”最新事情

特集 消費電力削減はここから始めよう!利益に直結する“グリーンIT”最新事情

グリーンITに関する話題が様々なメディアで取り上げられ、高密度化を続けるIT機器への対策としてその有効性が議論されている。IT機器を提供するベンダやインテグレータは省電力や熱対策への活動をアピールする向きもあるが、ユーザ企業ではいまだに積極的に取り組んでいない、もしくは優先順位の低い要件となってしまっている現実がある。それは、環境負荷を軽減しながらも「グリーンITは利益に直結する」というメリットが理解されていないからだ。そこで、ITインフラ・電源管理ソリューションのリーディングカンパニーであるラリタン・ジャパン株式会社とともに、マクニカネットワークスカスタマリレーション推進室の金児室長にお話を伺いながらグリーンITの実情を探った。

グリーンITの本質とは何なのか?

「グリーンIT」という言葉が登場したのは、今から3年前の2006年ごろ。明確な定義はされていないものの、米国環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)によって示された「IT機器製造時からリサイクルを含めた廃棄に至る過程での環境負荷軽減を行うための包括的な考え方」というものが一般的な定義とされている。これは、環境配慮の原則をITにも適用した考え方となっており、二酸化炭素の排出量を抑えることによる地球温暖化防止への配慮はもちろん、有害な化学物質の管理や廃棄されるIT機器のリサイクルなどまでを含めた広い概念となっている。

なかでも、IT機器に含まれる有害物質の含有量削減については、欧州で定められた指定有害物質を原則禁止するRoHS規制(Restriction of the use Of certain Hazardous Substances in electrial and electronic equipment)などをベースに、対象化学物質を原則使用しない動きが活発化している。リサイクルに関しても多くの企業が積極的に活動を推進しており、グリーンITに対して前向きに取り組んでいるユーザが多いのは事実だ。

ただ、地球温暖化への対応についてはまだ十分だとはいえない。総務省が2008年4月に取りまとめを行った「地球温暖化問題への対応に向けたICT政策に関する研究会」報告書では、交通手段の代替や生産活動などの効率化を目指すために情報通信技術であるICT(Information and Communication Technology)を積極的に活用することが必要とされ、同時に、ICT分野で二酸化炭素排出を削減することが求められている。ちなみに、2012年において、通信分野・放送分野を合わせたICT分野全体では730億kWh(うち、通信分野が570億kWh)の電力が消費され、3000万トンの二酸化炭素が排出されると推計されている。これは、1990年度の日本の総二酸化炭素排出量の2.4%に相当する量だ。

図1:<通信分野の電力消費量と2012年内訳>

図1:<通信分野の電力消費量と2012年内訳>

さらに同報告書では、データセンターやASP・SaaSを利用する際のエネルギー効率を比較する指標が明確になれば、ユーザがサービスを選択するときの新たな指針として参考になるだけでなく、各事業者によるエネルギー効率に向けた取り組みの促進に有効だという報告がなされている。データセンターに関しては、電力消費量が過去5年間で倍増、今後5年でさらに倍増するという報告書が2007年8月にEPAから発表されており、日本でも同様の状況になることが十分考えられる。地球温暖化対策に向けた電力削減の活動は、様々な場面で更なる努力が必要なのだ。

グリーンIT促進に拍車がかからないワケ

消費電力量が減れば当然二酸化炭素の排出量が減る。企業における地球温暖化対策の中心は、いわゆる消費電力の削減が中心となっている。そこで、消費電力についての取り組みは日本ではどのような状況にあるのだろうか。プロダクトマーケティング部の井上マネージャーによれば、電力削減について積極的に取り組まれていない現状があると指摘する。多くの企業では「分電盤からの電力供給部分は、ファシリティなどを見る総務部門などの管轄」であり、企業内にあるサーバルームまでの電源供給は総務部門が担当している場合が多い。そのあとのサーバ関連の設置や構築はIT部門が担当するという、いわば分業体制の状態だ。この分業体制のおかげで、IT機器の消費電力についての取り組みはどっちつかずの状況となっている。

IT部門は“いかにシステムを安定的に稼働させるか”ということがミッションであり、コストの削減には意欲的ではない。逆に、総務部門は経営層からの指示でコスト削減を行うことがミッションになりやすい。主に経営資源として挙げられる代表的なモノには“人・物・金”の3つがあり、この中でも経費を直接減らすことがコスト削減に大きく効いてくる。そのひとつが電気代の節約だ。ただ、総務部門が考える電気代の削減は、例えば昼休みにオフィスの照明を落としたり、空調の温度調整を行ったりすることが大きな施策の柱になりがち。立場の違いから、IT部門に対してコスト削減を指導していくことは難しい面もある。しかも、様々な取り組みを行った結果、電力会社からの請求金額でしかコスト削減の効果を実感できないのだ。

しかし、サーバやストレージなどIT機器の導入が進み、さらにデータ量の増大で処理の高速化が求められると、プロセッサの処理能力向上が必要になってくる。今後も爆発的に消費電力が増大していく可能性があるとセールス本部の奥村部長。「会社に1台しか汎用機がなかった時代から、今では10万円でもサーバが購入できる時代。多くのIT機器が導入されていることからも、消費電力は増え続けるはず。エネルギーコストがIT機器のコストを上回る可能性もある」と指摘する。もちろん、低消費電力CPUなどが発売されたり、複数あるサーバを統合する仮想化技術のコモデティ化によって消費電力を減らす試みが行われたりなど、ベンダ側でも様々な取り組みがなされている。

図2:IT機器コストとエネルギーコストの伸び

図2:IT機器コストとエネルギーコストの伸び

ただ、考えてみてほしい。電力量を減らして経費削減に貢献する必要性は理解できるものの、そのために業務に支障が出てしまうようでは意味がない。消費電力を軽減するために処理能力の低いサーバを導入すれば、日々の業務処理に遅延が発生する可能性もある。また、空調温度を上げることでサーバを効率よく冷やすことができず、サーバそのものを停止させてしまうなんてことでは本末転倒だ。

そのために必要なことは何なのか。金児室長は「ダイエットをするなら体重計が必要。電力を減らすためには、その指針となる電力測定が欠かせない」と語る。これまで具体的にIT機器の消費電力を軽減する取り組みを積極的に行えなかったのは、どれだけIT機器に電力が消費されているのか、長期間きちんと測定する環境が整っていなかったことが理由の一つだという。普段のアイドル時とピーク時、そして平均の電力量を年間通じて測る仕組みがないと、いざ安定的に稼働するために必要な電力量が算出することができない。この指針があれば、コスト削減とITの安定運用を両立して考えることができ、ひいては企業のメリットにも大きくつながるはずだ。

データセンターだからこそグリーンITは儲けにつながる

顧客のIT資産を預かるデータセンターではどのような取り組みがなされているのだろうか。最近では、環境配慮型データセンター、いわゆるグリーンデータセンターと呼ばれるものが登場し始めており、企業からも注目を集めている。これは、これまで以上に効率性の高い空調設備や電源設備を採用し、IT機器の最適な配置によって消費電力を削減していくというもの。その時の基準となるのが、PUE(Power Usage Effectiveness)と呼ばれるものだ。

PUEとは、データセンター全体の消費電力をサーバやストレージなどIT機器の消費電力で割った値のこと。IT機器以外の電力でいえば、サーバ類を冷やすための空調装置や無停電電源装置などの電力設備、照明機器、サーバの状態を監視する監視装置などが含まれる。この値は、1.0に近くなればなるほど電力効率の高いデータセンターということになる。逆に、数値が高ければ高いほどIT機器の電力効率が悪くなり、無駄なコストを費やしていることの証となる。このPUEの値は多くのデータセンター事業者で意識されており、「営業にいってもPUEを知らない事業者はいない」(金児室長)状況となっている。データセンターが低いPUE値を目指すのは、単に空調や証明にかかるエネルギーコストを低く抑えたいからだけではない。顧客がデータセンターを選ぶ際、料金が同じであればおそらくPUEの低いデータセンターを選ぶだろう。つまり、顧客のグリーンITへの意識をくすぐり契約を獲得するという営業トークの一部になっているのである。

「さらに、今後データセンター事業者は顧客に対して消費電力削減を促していくことが急務になる」と金児室長は続ける。現在、データセンターでは使用した電力に応じて顧客に課金する料金体系となっていないのが一般的。つまり、ユーザ側からすると、電気代は自分が支払いうものだという意識が弱く、使いたい放題だと思っている節すらある。当然この電気代は純粋にデータセンター事業者側のコストとして重くのしかかってくる。顧客が消費電力を削減してくれるのであれば、浮いたコストはそのままデータセンター事業者の利益となるだけでなく、以前と同じ電力容量で新たな顧客を収容可能になるため、さらに利益の上乗せも期待できる。

消費電力を可視化することが顧客のグリーンITへの意識を高め、消費電力削減を促すために効果的なのだが、現在新設されているデータセンターでさえ、ラックやITデバイス単位で消費電力が測定できる設備を持っているところが多いとはいえない。「ラリタン社製PDUのようにITデバイスごとに消費電力を測定する仕組みがあれば、電力測定を付加価値サービスとして新たなメニューに加えることだってできるようになる」(井上マネージャー)。顧客に消費電力削減を促したうえで、新たな料金徴収もできるというわけだ。消費電力量を減らしていく必要があるデータセンターにおいては、こういったサービス体系を構築していくことが求められていくことが容易に予想される。

最近では、電力子会社などが展開するESCO事業者など、電力測定を行うことで経費削減につなげるビジネスモデルを展開しているところもある。この事業は、消費電力をどのくらい低減するのかをコミットできるメリットがあるものの、年間コストは1億円を超えるケースも少なくない。国からの補助金で多少は補えるが、長期的なスパンで考えるなら自前で電力量を測定する仕組みはぜひとも欲しいところだ。業務フローの改善に取り組むPDCAサイクルがあるように、サーバの投資や電力の最適化についてのPDCAサイクルを“消費電力”の観点から見直すことはコストダウンに大きく貢献できる。つまり、グリーンITに取り組むことは、直接的な利益につながるということなのだ。

グリーンITに関するビジネスフィールド

最後に、グリーンITに関するビジネス領域について改めて振り返ってみよう。ここでは、おもに消費電力削減につながるソリューションを中心に見ていきたい。いくつかの段階が考えられるが、最初に取り組むべきは「消費電力の測定」だ。電力量を測定する場合には、PDU(Power Distribution Unit)と呼ばれる機器を用いてサーバやストレージ、ネットワーク機器の消費電力を測定する。同様に、PDUを用いて測定を行うサービスも存在する。この測定が消費電力を削減するための基礎データとなるため、非常に重要な部分になる。

次に、基礎データをもとに消費電力をどのように削減するのかのコンサルティングサービスなどを経て、具体的に消費電力削減のための対策を実施する。この段階では、IT機器の消費電力と大きな電力量を占めている空調周りの消費電力対策が中心となる。IT機器の対策としてよく取り沙汰されるのが、Xeon プロセッサなど省電力CPUを採用し、ファンの回転数を極力減らしながら夜間など利用していない時間帯にサーバを停止させたりすることで日々の電力消費を抑えることができるブレードサーバだ。また、このブレードサーバとセットで検討されることが多いのが、サーバ仮想化技術。複数のサーバをブレードサーバで集約し、さらにサーバ仮想化でサーバ統合を図るというもの。

また、IT機器以外の空調や照明などについても様々なビジネスが展開されている。例えば、ラック間を密閉状態にして冷気と暖気を分けることで高効率な空調を実現するソリューションやラックの背面ドアに水冷式のラジエータを内蔵したものなど、空調に関してはベンダごとの取り組みも各社各様だ。ただ、すべてばらばらに機器を導入していては電力の最適化を図るのは難しい。これら空調や照明を含めて有機的なネットワーク環境で制御できる仕組みが必要となるため、統合的に管理・制御できる製品にも大きな期待が寄せられている。

さらに、これらすべての対策を施しながら、消費電力の推移を可視化し、消費電力をもとにしたPDCAサイクルのプランニングを行うことができる製品もある。長期間におよぶ消費電力の測定とその対策、そしてさらなる対策につなげるためのプランニングツールを循環させることで、企業におけるグリーンIT促進とその具体的な効果が示されることになる。

IT部門がグリーンITに取り組むことは、単に企業の社会的責任として実施されることだけではない。しっかりと対策を行うことで、コストメリットにつながることはお分かりいただけただろう。ただ、これまでは電力を詳細に測定するという考え方が定着しておらず、現状の電力量の把握もままならない状態だった。消費電力を最適化してコストメリットを出す意味でも、まずは消費電力の把握から行っていただきたい。最適な電力量を測るのは、5年後の新たな投資に向けてのステップのひとつなのだ。

Reported by Hirokazu Charlie Sakai, Writer

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