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現代美術の考え方“Chance Operation”は“柔”に通ず。プレイヤーをつなぐパイプ役になりたい!

コンテンツサービスプロデューサー 町田 聡氏

仕事で人と会う機会が多い方もそうでない人も、ビジネスに欠かすことのできないIT業界にはいろんな方が関わっています。技術に秀でた人からコミュニケーション力の高い人まで、そのプロフェッショナルなスキルは千差万別。でも、そこにはやっぱり “人”がいるのです。そんなIT業界で働くプロフェッショナルな人々にスポットを当て、技術と人の交わりを再発見する「インタビュー」コーナー。普段の仕事内容はもちろん、IT業界で働き始めたきっかけや仕事における驚きのエピソード、オフの過ごし方や家族に対する思いなど、その人物の魅力に迫ります。

[今回インタビューした人]

コンテンツサービスプロデューサー
町田 聡 氏

デジタルサイネージや3D映像システムなど、コンテンツの制作から流通に至る一連の流れを作るべく、各企業とのパイプ役としてコンサルティング事業をフリーランスで展開。学生時代は現代美術を専攻し、ビデオ作家として活躍。立体映像産業推進協議会に所属、デジタルサイネージコンソーシアムのシステム部会コンテンツグループのリーダを務める。家族は妻と娘、そして愛猫一匹。

アーティスト出身!?異色の経歴を探る

Q:コンテンツサービスプロデューサーという肩書をお持ちですが、どのようなお仕事でしょうか?

A:コンテンツサービスそのものをプロデュースするという、私の作った造語です。コンテンツサービスというのは、単にパッケージとしてのコンテンツではなく、コンテンツを作る仕組み自体でサービスが提供されている状態を指します。イメージしやすいのは、ソフトウェアがサービスとして提供されるSaaSのようなもの。コンテンツをサービスとして提供するような仕組み、それをプロデュースするのが私の仕事です。いうなればCaaS(Content as a Service)環境をプロデュースする仕事といえばわかりやすいでしょうか。最終的には、クリエイターがコンテンツを作るのではなく、仕組みそのものがコンテンツになっていくCGM(Consumer Generated Media)分野に関わることが目標です。

Q:具体的にはどのようなコンテンツサービスがありますか?

A:最近では、生活のいろんな場面で見られるようになってきたデジタルサイネージ分野です。他にも3D映像のプロデュースもしていますが、わかりやすい肩書としてデジタルサイネージコンサルタントと名乗る場合もあります。特にデジタルサイネージの場合、媒体社や広告代理店、制作会社、ロケーションオーナー、システム機器メーカーなど実に多彩なプレイヤーが存在しています。日本ではシャープやPanasonicなどパネルメーカーが多く、パネルを売らんがためにロケーションオーナーである流通事業者との関係がうまくいかなかった歴史もあり、なかなか大きな市場にまでは成長していません。私は、これらの関係を上手につなぎあわせる“糊”のような役割を担うべく、日々活動しています。

Q:コンテンツ関連のビジネスに関わるきっかけを教えてください。

A:学生時代は現代美術を専攻し、中でもエレクトロニクスを素材にしたアーティスト活動を行っていました。映像を使ったビデオ彫刻と呼ばれる手法を用いて、複数のビデオモニタをつなぎ合わせて庭園を表現するなど、ビデオ作家としての活動を行っていたのです。例えば、昔のテレビには映像を調整するつまみがついていて、その同期をわざとはずしてあげる。そうすると、あたかも複数のモニタを映像が移動するように見せることができるのです。これは、見せる映像とその環境をどうやって作るかという意味で、かつては環境彫刻とも呼ばれていました。実は、マーケティング手法も含めてコンテンツをどうやって見せていくかという今の仕事の原点がそこにあります。

町田 聡 氏

チャンスを引き寄せる“柔”的な仕事術とは?

Q: アーティストからの転身という意味では異色な感じがしますが?

A:油絵や水彩画などとは違い、現代美術の中でもエレクトロニクス関連の素材を使っていたこともあり、この業界に関わることにそれほど違和感がありませんでした。「どんな場所で、どういう人たちに、どんなものを流して、何を伝えるのか」というのは、現代美術の使命の一つだと考えていましたので、ビジネスを行う上でも発想はまったく変わっていません。確かに、私のように現代美術の世界からデジタルサイネージに関するコンサルティングを生業に選んでいる人は珍しいようです。テレビ関係の業界から来られた方はいらっしゃるようですが。

Q:現在はフリーランスで活動されていますが、これまでのキャリア変遷について教えてください。

A:大学を卒業後にデジタルビデオ機器メーカーに就職し、数年後に3次元人体モデルを作るコンテンツ制作会社に転職しました。そこで医療教育コンテンツの制作に関わりながら、ライブラリ化された情報を組み合わせるだけで必要なことを伝えられるコンテンツのプラットフォーム作りにも参加。これは理化学研究所と共同開発したものですが、アカデミックな仕事が多かったこともあり、もっと幅広いコンテンツに携わりたいと考えたのです。そこで、フリーランスを経て2007年に日本SGI株式会社に入社、コンテンツビジネス担当部長やデジタルサイネージ担当部長を担当させてもらい、2009年3月には現在のフリーランスとして活動を開始しました。

Q:フリーランスになられた理由は何ですか?

A:前職からデジタルサイネージ分野に関わり始めたのですが、やはり日本の場合はプレイヤーが多く、特定のベンダに在席していると柔軟にサービスを選択、展開するのが難しいという側面があります。たまたま、日本SGIではデジタルサイネージに関連した商品を持っていなかったため、商社的な活動にならざるをえませんでしたが、会社という制約がある以上「いいものだから使う」というわけにもいきません。この分野は混沌としていて、幅広い人脈を駆使して様々なプレイヤーと関係を深める必要があります。ただ、それはすぐに売上に直結するものではない。会社が定めたミッションとのズレを感じ、それがジレンマに変わっていったのです。そこで、業界を横断的に活動できる、プレイヤー同士をつなぎ合わせるパイプ役としてこの業界に関わるべく、フリーランスになりました。

Q:それでは、キャリアを積む上でこれまで心掛けていたことはどんなことですか。

A:現代美術を学んでいるときに身に付けたものに「Chance Operation」という考え方があります。これは、制作者による「意図的選択」を排除する手法で、簡単にいえば“向こうからくるものを捕まえる”こと。逆にいえば、向こうからくる状況を作るというものです。一見消極的に見えますが、チャンスが生まれる状況を作り、それをどうキャッチするのかということが重要なポイント。一瞬の好機を逃さないという意味では「チャンスの女神は前髪しかない」という感じでしょうか。これは、普段の生活や仕事においては人間関係に還元されるものになります。日本的な発想では、相手のことを組み入れてこちらのものとして返す、いうなれば“柔よく剛を制す”という柔の考え方に近いものです。

また、経験できることはなんでも一生懸命トライするということです。そうすれば “経験”という道具として自分の武器になるはずです。ロールプレイング的な発想でいえば、都度武器を手に入れないと、ただ単にほっつき歩いているだけで終わってしまいます。最初は押しつけられたからやる、という感覚でもいたし方ないですが、最後は自分なりに解釈してそれを体験して欲しいのです。私の場合、現代美術というバックグラウンドが拠り所となって、経験したことを自分なりに消化できたと思っています。

町田 聡 氏

悩んだどきこそ立ち返る、現代美術という“原点”

Q:普段取り組んでらっしゃることや、何か特別なご趣味はありますか?

A:趣味というかどうかはわかりませんが、写真を撮る機会は多いです。最近は立体映像を作りたいと考えていて、デジタルカメラで立体映像が撮れる立体カメラを持ち歩いています。2つのレンズが付いているやつですが、映した映像を大きなディスプレイで見たり、デジタルサイネージでどう使えるのかを考えたりすることも。まあ、本当の息抜きとしては、我が家の猫としゃべることなんですが(笑)。

Q:このオンラインマガジンは、技術と人が交わる「場」をテーマにしています。そこで最後の質問ですが、あなたにとって好きな「場所」はどこですか?

A:具体的な場所ではないのですが、何か悩んだときに自分が還れる“場”というか、原点は持っています。それは、私の場合、現代美術になるのですが、そこに戻ると自分に足りないもの、やり残したことがわかるのです。そんな場の存在は私にとって欠かせないものです。
いつか住んでみたい場所としては奈良です。学生のころは現代美術と古美術研究を一緒にやっていて、仏像を見るのがとても好きなのです。早朝に東大寺の南大門へ出かけたとき、杖をついて休んでいるおじいさんと鹿を見かけたことがありました。何か平安の時代にタイムスリップしたようで、時間を超越したような感覚に陥ったのを覚えています。 そういう意味で、お寺や美術館は、自分の拠り所を再確認できるとても好きな場所です。

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